エレベーター。

乗り込んだエレベーターの様相がいつもと違うことに気づいたのは、堅牢な扉が一縷の隙間なく閉じ切られた後だった。僕は開けるのボタンを強く押したが、そのボタンはすでにただのオブジェと成り果てていた。僕は溜息をついて、首を振った。周りを見渡せるようにこの首がついているのに、俯いたままであったことを恨んだ。

エレベーターは奇妙な速度で動き出した。決して高速な移動をしているわけではないが、体感以上のぬめりに似た感触がある。次元を跨いでいるのかもしれない。平衡感覚は失われていき、痛みに近いむず痒さが全身を包んだ。僕はやるせなくなり、床に座り込んだ。尻を着いた瞬間、床は蟻地獄のように沈みはじめた。僕に藻掻く気力は残されていなかった。

世界には、たくさんの僕がいた。それは過去であり、未来であり、無数の可能性だった。僕はそれが見えていなかっただけであることを悟った。スポットライトがたまたま自分に当たっていただけだと気づいた。世界はあきれるほど広く、ある意味では最も狭かった。


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