くらげのうた。
「私は海月の脳みそが欲しいの」
彼女は突然に蘇生し、僕に訴えかけた。
「くらげの脳みそ?」
僕は思わず聞き返した。彼女はとても理性的な人だった。衝動的に何か幻想的なことを言い出したことは、これまで一度もなかった。
「そう。どうやって手に入れようかしら」
近頃の彼女はひどく疲れていた。彼女は思索に耽るきらいがあったから、これまでもそういう時期が何度もあった。しかし、今回はそのいずれよりも重く、深い哀しみに包まれていた。ひねもす俯き続けていて、僕の呼びかけにも辛うじて首を振るのがやっとなくらいだった。
「まずは海月のいる場所に連れてって」
僕は迷った。海月には脳なんてないことを、伝えた方がいいのだろうか。せっかく蘇生した彼女を否定するようなことがあっていいのだろうか?
「早く。海月が逃げてしまう」