閑暇。
野原を駆ける犬がいる。名前はなんていうのだろう。風は涼しく、日光は暖かい。世界中でピクニックが行われるべき、そんな陽気だった。
束の間の閑暇に人々の表情も柔和だ。笑顔がこぼれる。久方ぶりに笑ったからだろうか、なんだかこそばゆそうだ。時間の流れる速度は主観で伸び縮みするものだが、今日は確かにのろまであった。地球がきまぐれに自転を緩めているのではないかと疑ってしまうくらい、のどかだった。
しかし、地球は粛々と責務を全うしているだけで、彼らが夢心地にいたに過ぎなかった。パァン。乾いた音が全員の鼓膜に響く。先ほどまで大地を踏みしめていた犬が宙に浮く。彼らの顔は強ばる。ピストルは彼らを現実に引き戻す号砲だった。束の間の閑暇を与えたことが正しかったのかどうかは、私を随分悩ませた。