ひかりあれ。
はじめにインコは、ヒトに言葉を教えた。
「光あれ」
「いぃあいぃあえ」
インコは思わず鼻で笑ったが、根気強く続けた。
「光あれ」
「ヒカリアレ」
このようにして、ヒトは最初の言葉を会得した。しかし、意味はまだ付帯していない。インコは羽の先で太陽を指し、ヒトに促した。
「ひ・か・り」
それを随分と観察した後、ヒトは太陽を指さして答えた。
「ヒカリ」
なるほど、わりに勘が良いらしい。インコは満足げに頷くと、羽を広げてヒトと太陽の光とを遮った。
「ない」
「あぁい?」
インコは羽を畳んで、続ける。
「ある……いや、あれ。あ・れ」
ヒトは間抜けそうに首を傾げたので、インコはそれを繰り返した。ない、あれ、ない、あれ。
「ヒカリ、アレ」
ヒトはその意味の概形を理解し、頭を垂れた。インコは満足して飛び去った。インコはヒトに言葉を教えたことを忘れ、そのうちに言葉も忘れてしまった。インコは、その後にヒトが大変な物語を紡いだことも、その源流に自身がいたことも知らずに、今日も籠の中でフンをしている。