彼女の腹には、蝶が羽ばたいている。凜とした黒色の蝶。普段は影を潜めている。彼女の本能が剥き出される時、その蝶は舞う。ヒラヒラと、僕を挑発するように美しく舞う。僕は蝶を掴みたいと思う。掴めない。やがて『少年の日の思い出』のように、衝動的な思いに駆られ始める。僕の視線は蝶に集約される。彼女の存在を蔑ろにして、蝶に囚われてしまう。
「そうか、そうか、つまり君はそんな奴なんだな。」
僕は戦慄して、彼女の顔を見つめる。しかし、彼女はぼんやりと天井を見つめているだけであった。僕が混乱し目を離している内に、蝶は彼女の腹から飛び出す。ヒラヒラ。ヒラヒラ。蝶が消えてしまったことに気付いた時、僕は彼女を失った。煙の様に消えてしまった蝶を、僕は今でも探し続けている。