チェス。
「ブダペスト・ギャンビットだなんて、随分お洒落じゃあないか。」
「…これでもまめに勉強しているんだよ。」
「しかし、君は頭でっかちになるきらいがあるね。これじゃあナポレオンみたいだよ。」
「僕も、あんな偏屈なチェスを指しているのかい?」
「客観的にみてみなよ。酔っている僕でも、3パターンは崩せるね。」
「なんだい、これじゃあ勉強した意味がないよ。」
僕は、キングを伏せる。
「…ちょっと諦めが早いんじゃないかい?」
「負けを認めるのも、上品さだよ。」
「君、上品をはき違えているよ。相手をリスペクトするから負けを認めるだけで、勝利を諦めるのはプレイヤーとして最低だ。ナポレオンの棋譜が、どうしてあれだけ残っていると思う?」
「僕は別に、ナポレオンになりたい訳じゃあないんだよ。」
彼は悲しそうに自分のキングを伏せた。