艀。
「私はしがない、三途の川の艀でございます」
「……おじいちゃん、三途の川のはしけさんが、どうして渋谷の交番にいるの? 」
「私はしがない、三途の川の艀でございます」
「……おじいちゃん、本当におうちおぼえていないの? 何か、身分を証明するものある? 」
「私はしがない、三途の川の艀でございます」
「……分かったよ。行けばいいんだろ、行けば。それにしても、最期まで交番だとは……俺の人生はあまりにも単色だったな。ねぇ、はしけさん」
「……似たもの同士ですね。だからあなたはわざわざ舟で三途の川を渡るんですよ」