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逃象。

眠れない夜は象を数える。諳んじるとなおいい。

「ぞうがいっぴき」

象は偉大だ。エルガーは象を目の前にして作曲したんじゃないかと思う。目の前の空気を慈しむみたいに鼻をしならせ、微生物達に現実を知らしめるみたいに大地を踏み躙る。  

「ぞうがにひき」

象は寛大だ。僕は象が荒ぶる所を見たことがない。仮に何かの過ちで象を傷付けてしまっても、象は菩薩のように赦してくださるとさえ思ってしまう。しかし、悪戯にそうはさせない威厳も持ち合わせている。人間は始め、神様を模倣してこねられた粘土だとか言う宗教もあるけれども、多分象の方が的を射ている。

「ぞうがさんびき」 

あ、さっきのは眠れない青年の私感です。

「ぞうが……」

象は忽然と姿を消してしまった。ストレイ・エレファント。象は頭がいいから仕方がない。僕はまた一から象を数えればいい。そうしていれば、眠りがやってくる。もしくは、朝日が嘲りにくる。どちらにせよ、僕は象の寛大さを見習って受け入れようと思う。

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