ロミオジュリエッタ。
彼女はとても手慣れた様子でシガーをカットした。ヘッドは見事な丸みを帯びていて、葉溢れもなかった。
「随分、慣れたものだね」
中指と薬指の間で深く葉巻を挟む様子に、あの頃の面影はなかった。
「それくらい時間が経ったもの」
それは解答になっていなかった。5年前の彼女はおぼこな面影がまだ微かには残っていて、酒場に一人で行くようなタイプではなかった。しかし、我々が重なり合わない5年の間に、それぞれの物語が紡がれているのだ。会話に省略されている背景が共有されていないのだから、齟齬が生まれるのは仕方がないことだ。
先端をじっくりと燻す姿は、僕に魔女を思わせた。濡羽色のカジュアルなドレスも、暗がりの店内も、彼女の魔女性を裏付けているみたいだ。
ロミオジュリエッタのヘッドに、彼女の口紅が染みる。それは僕への媚薬であるかもしれないし、5年かけて調合した毒であるのかもしれない。やがて彼女は灰を静かに落とし、灰皿を回してヘッドを僕の方に向ける。ロミオジュリエッタ。いずれにしても、僕は今夜彼女に酔いしれるのだ。