コンビニエンスストア。
大学の構内には、二十四時間営業のコンビニエンスストアがある。しかし、夜半も過ぎれば利用者なんてほとんどいない。どれだけ数寄者な教授でも日常的には自宅の寝室で眠るし、夜中の利用用途は酒や煙草が切れた時以外ほとんどない。だからそれは、ある種の矜持なのであろう。大学が時間を問わず稼働していることのメタファーとして、その建物は夜もすがら煌々と存在を顕示している。
「大学の敷地内のため、身分が確認できるものをお願いします」
僕は慣行的にポケットをまさぐったが、そこに財布はなかった。なかば衝動的に家を出たから、スマートフォンと鍵以外のものを置いてきてしまったのだ。もちろん頭は酔いどれだったから、能面みたいな写真が添付された免許証の画像がフォルダに格納されていることを思い出せなかった。
「すみません、ないので失礼します」
やれやれ、また不審者の要素が一つ含蓄されてしまった。
「……もしかしてなんですけど、○○君ですか?」
瞬きをしてから見直すと、店員は同じ授業を受けている学生だった。名前は……今は思い出せないけれども。
「ああ、同じ授業の」
「こんな時間だから、気付かなかった」
手首の針に視線を落とすと、午前3時の近くを指していた。
僕は時々、そのコンビニエンスストアを覗いてみる。彼女がいないことの方がずっと多いけれども、僕はその夜の一幕をなぜかとても印象的に思い出すのだ。