教室のピアノ。
「…Aさんに赤紙が届いたそうだよ。」
「…気の毒ねぇ。」
「…うちの子は廃れた公民館でうだつが上がらないと思っていたけど…やっぱり教室のピアノに比べたると…ね。」
「何か包んであげないと…あ、Aさんが来たわよ…。」
「ねぇ、母さん。どうして僕が居室のピアノにならなくてはならないんだろう。」
「…。でもね、弾かれることは確かなのよ?」
「そんなの分かっているよ。でも、教室だなんて…。スクールカーストを誇示するためだけの、政治的な音を出す役割を僕が担うだなんてあんまりじゃないか。」
「幸せの形は人それぞれよ。そんなに落ち込まないで…。」
「ねぇ、母さん。気休めはよしてくれ。誰もがそう思いながらも、結局屈辱以外の何者でもないから赤紙だなんて呼ばれているんじゃないか。」