幽体離脱。

幽体離脱が特殊能力であることに、僕はずっと違和を憶えていた。それは、僕にとって日常の少し先にある営みに過ぎなかったからだ。それが才能であると言うならば、それには越したことがない。しかし僕は、耳朶をダンボのようにはためかせたり、サーカス団員のようにペンをくるくると回すことの方が、よっぽど特技に値すると思う。人生はいかなる場面においても、隣の芝生がやけに気になるものなのかも知れない。

幽体離脱のハウツーは、僕にも分からない。強いて言うなら、身体と意識を切断しようとするのではなく、意識で身体を包むことだ。立方体の錯視と、感覚は似ている。コツさえ掴んでしまえば、利き手の逆で字を書くより簡単だ。

幽体離脱は何故か仰向けで行われるイメージが定着しているが、別に何時でも何処でもできる。僕なんかは、くだらない授業なんかはだいたい幽体離脱をしている。身体は習慣で動くから、勝手に勉強してくれるのだ。

幽体離脱をすることで、自分とは何かを僕はようやく認識することができた。幽体離脱が特殊能力だとしたら、世の中の人は随分生きづらいと思う。もっとも、幽体離脱より素敵な能力に、世の中は満ち満ちているんだけれどね。

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