疹恋。
恋煩いが祟って、蕁麻疹ができた。左の脹ら脛にできた蕁麻疹は僕の思考を削ぎ落とし(痒い!)、否が応でもその存在感を露わにしていた。まるで彼女を思う気持ちのメタファーそのものみたいだ。僕は蕁麻疹に彼女の名前を付して、眠るまで愛でていた。それは素敵なデートみたいに麗しい時間だった。
明くる日、蕁麻疹は消えていた。たった一つの蕁麻疹さえ、僕は守ることができなかった。僕はひどく打ちひしがれて、ウイスキーに逃避行をした。涙を飲みながら浸っていると、脹ら脛にむずむずとした感触がした。彼女はそこにいた。
眠りは彼女を遠ざけ、琥珀色は彼女を近付ける。僕はフォアグラになるまで、そういう生活を続けた。その頃には沢山の彼女が発現してくれていたけど、彼女の顔や声はすっかり忘れてしまっていた。
そして、その日が来た。フォアグラは他の臓器を圧迫して、僕はふっと意識が飛んだ。最期。それは永遠の眠りだったけど、彼女は最期まで消えなかった。