火星。
疎遠になった人達は、みんな火星にいる。そういう夢を見た。それが現実であることを、僕は認めざるをえなかった。火星からは声が聞こえる。火星からは念が届く。光の速さに近づいたそれらが、みかんの粒みたいな地上の僕に刺さる。それには恨みが混ざっている。それには呪いが混ざっている。僕が疎遠にしたばっかりに、彼ら彼女らは火星に閉じ込められている。神様のきまぐれで、人は天使にも悪魔にもなる。神様が暇潰しで僕に与えたものは、疎遠になった人を火星送りにしてしまう運命だ。
火星には彼女がいる。僕がかつて、どうしようもなく惹かれた彼女が。彼女が僕を詰っている。僕が当てつけにそうしていると言わんばかりに。しかし、どうすることができよう? 僕が彼女をどれだけ愛したとしても、距離が離れてしまえばこうなるのだ。
しかしそれでいいじゃないかと、僕は自分に言い聞かせる。月よりは遠いけれども、木星よりはずっと近い。本当に思えば、僕はきっと彼女を迎えにいける。宇宙は広がり続けているけど、ずっと近くなっているのだ。僕は火星に枕を向けて、今日も疎遠になった誰かを火星に送り続けている。