人形うらみ。
男はその頃深刻な不眠だった。
「まったく、どうして眠れないんだ」
口に出さなくてはやるせないほどに、男は疲弊していた。
「まったく、どうして眠れないんだ」
男は朝陽に照らされて気が立っていた。その原因が自身にあるとは思えなかったからだ。男はこれまで眠ることに関して不自由を感じたことはなかったし、極めて規則的な生活を送ってきていた。眠るために激しい運動もしたし、風呂にも長い時間つかった。それなのに、眠りが訪れる前に朝陽が顔を出した。男は何か寝室に原因があるのではないかと猜疑心を抱いた。そして、人形と目があった。
「きっと、おまえのせいだ」
男はその害のない人形を鷲掴みにして、壁に向かって投げつけた。何度も床に叩きつけた。人形は声を出さずに、男の憤怒を受け止めた。男の心拍数は上がる一方で、全身の毛先からは汗が吹き出し、瞳からはまるで男自身が溶けだしているかのように涙が滴った。
ぐしゃぐしゃになった人形を見て、男は寝ようと思った。以来、男の部屋には人形の死体が転がり続けている。