さよならダンプティ。
ハンプティダンプティが夢に出てきた。物憂げな表情を浮かべていて、その微笑ましい体躯に似つかわなかった。
「どうしたんだい、ダンプティ」
「実は、これでお別れなんだ」
僕はいつもの小粋なジョークを期待していたから、その言葉を上手く咀嚼することができなかった。
「どうして?」
「君はそろそろ、僕なしで生きなければならない」
いったい、いつ僕がダンプティを頼った?
「僕も寂しいけどさ、仕方がないことなんだ。君のためにも、僕はいなくなるよ」
「時々、会ってくれればいいじゃないか」
「それは、お別れと言わないよ」
僕は卵を潰してしまった。細かくひび割れた殻が手のひらを引っ掻き、白身と黄身がまるで竜に舐められたみたいにまとわりついた。ハンプティダンプティは消えてしまった。僕は無意識に、その戯画的なモティーフに仮託して生きてきたことを悟った。