夢でも年を取るカンナ。
「もう10年も前になるね」
カンナの首筋には僕の目に映らなかった分だけの歳月が刻んだ皺が浮かび、その妖艶な皺が僕を惹きつけていた。
「そうね」
「僕との思い出は、片隅くらいには残っているかな?」
カンナは黒のロングワンピースを着ていて、上品なネックレスを下げていた。服装も話し方も10年分の変化をしているが、声だけはあの頃のままだった。
「わりに、素敵な思い出のひとつよ……別れ方は、最悪だったけど」
「僕はいまだに……そのことを後悔しているんだ」
カンナはカクテルグラスを静かに口へ寄せ、まるでホットミルクみたいに啜った。ブルームーン。飲む酒もすっかり大人びて……いや、僕達はもう十分過ぎるくらいに大人だ。
「後悔は、憐憫な自己表現に過ぎないわ」
「そうだね……僕は弱さを嘆くだけの臆病者に過ぎなかった」
「今は変わったっていうの?」
「変わってはない。ただ、受け入れてはいる。あの頃よりは上手に付き合えている」
カンナは徐ろに立ち上がると、踵を返してから言い残した。
「今度、子供の顔を見せに行くわ」
目が覚めて、僕はやるせなく自慰をした。