詩性。
男はまとまった文章を書くことができなくなった。それは、アルコールに耽溺していたことが原因なのかも知れないし、文章に対して諦念のような感情を抱きつつあったからなのかもしれない。少なくとも男は、まとまった分量を書いても、その途中からどうしようもない虚無感に襲われるようになり、全て消してしまうようになった。男は豊かな文章の才に恵まれ、またその行為を愛していたから、その変化に周囲の人間はとても憂いた。
男は文章の代わりに、詩に没頭するようになった。詩を詩たらしめる韻律や技巧に、また詳らかな説明をあえて遠ざけるその奥ゆかしさに、深く感銘を受けた。やがて、男は文章を書けない空白を埋めるように、大量の詩を残した。彼がもつ詩性に多くの人は感涙し、同時に少なくない人を狂わせた。