トリレンマ。
「覚悟はできています」
リーダーは椅子に深く腰掛け、僕を見上げている。その表情は毅然としているが、そこはかとない人情が皺に滲み出ている。
「……私にはね、たくさんの同志がいたよ。夢を語り合い、勝利を信じて疑わなかった、かけがえのない同志達が」
リーダーの視線には、理屈では説明しきれない威厳が宿っている。
「しかし、今こうして心臓を打ち鳴らしているのは、私一人しかいない。その意味が分かるかね?」
「誰よりも強い覚悟を、リーダーは……」
「その逆だよ」
リーダーは咳払いをして、僕に残された返答の可能性を断ち切った。
「覚悟が決まっている奴から、死んで行くんだ。小心者や弱虫だけが、生き残ることだけに必死になれる」
リーダーはゆっくりとした所作で、ピストルを構える。銃口は私に向いている。
「君には3つの選択肢がある。覚悟を貫く、覚悟がないことを認める、逃げ出してしまう」
「……あなたは、その銃を撃つことができない」
「その心は?」
「あなたには覚悟がないから」
「度胸が身に余ったね」