幽霊とて。
深夜の大学には、幽霊がいた。
「やあ、本当に幽霊なんているんだね」
僕は随分酔っていたので、誰かと話したい気分だった。
「……ここで死んでから、ずっといるのよ。誰も気付いてはくれなかったけど」
「確かに、太陽が出ていれば普通の大学生にしか見えないからね」
幽霊はぼんやりとしているけれど、それは暗闇の中だから際立つ程度のものだ。
「ねぇ、あたしはここで死んだのよ。あの棟から飛び降りて。怖くない? 」
「だって、こうして意思疎通ができているじゃないか。どうせなら一緒に飲みたいよ。ちょうど桜の季節だしね」
僕はデートをしていた女の子に終電で帰られて、渋々大学の駐輪場に向かっている途次だった。
「君、変わってるね」
「よく言われるよ」
僕は缶を傾けながら、月を見上げた。視線を戻すと、幽霊は消えていた。
「本当に、飲みたかったんだけどな」
僕はまだ酒が残る缶を芝生の上に置いて、しばらく桜を眺めていた。もちろん、帰る頃には酒がなくなっていた。僕は少し良い気分になったので、自転車を押して帰った。