刀。
展覧会のテーマは〝市井の人と刀〟だった。
「美味しそう」
それが刀を見た感想であったと気付くのに、僕は随分と時間を要した。
「……どこらへんが?」
畏敬をもって展示される刀身の前で、その質問には訳の分からない重みが付された。
「刃文には出汁が効いてそうだし、刀身も飲み込むのに丁度よさそうじゃない」
彼女は事も無げに呟いた。むしろ、わざわざ野暮なことを聞くのね、とでも言いたげな不満が醸し出されていた。
「まるで、食べたことがあるみたいな感想だね」
「……あなた以外、食べない人なんていないわ」
棺桶には、彼が誤飲した刀が入れられた。
「馬鹿な人ね」