パンダくん。
パンダくんは、君付けを極端に嫌っていた。
「正直言ってさ、飽き飽きしているんだ。パンダっていう言葉は、もはや男性名詞だよ。パンダと男性性の結びつきの強さに、僕は辟易しているんだ」
パンダくんは頭が良すぎるきらいがあって、それがパンダくんをいささか生きづらくしているようだった。
「僕はいたってシンプルなヘテロセクシャルだけど、そういう歪みみたいなものが本当に……好きじゃないんだ」
パンダくんはとても中立的な物言いをして、中立的な振る舞いを心がけていた。いつも乗っているスポーツバイクも、交通法に則った律儀な運転をする。
「また会おうね、パンダくん」
君付けをやめられない僕に、パンダくんはいつも罰が悪そうに笑った。