粋な神様。
皮肉なことに、彼は競馬で全財産を失うことで人間性を取り戻した。親族は泣き暮れ、友人は喜んだ。一方の側から彼を見ると順風満帆であったが、もう一方の側から見ると彼はとても危険な状態であった。表裏一体のメタファーのような人物で、何かと注目が集まるタイプの人間だった。
「ついに、あぶく銭を溶かしきったよ」
彼の笑顔に憂いは一縷とも混じっていなかった。
「うん、そうした方がよかったと僕は思うよ」
金銭を人生の尺度においてしまうと、人は生きづらくなる。どうやら、古今東西でその摂理は確からしい。彼は確かに〝あぶく銭〟を鱈腹蓄えていたが、それは臓器売買のようなものだった。人間性を切り売りして喜ぶのは、そういう性癖をもった人か、あるいは資本主義に親を殺された人か。
「会社も辞めて、家も引き払って。おまけに全財産があじゃぱー。でもね、なんだかこれでいい気がするよ」
「うん、膿は出し切らないと再発するからね。どうだい、今日のバイト代で、アン・あぶく銭で最後に賭してみたら」
彼は100倍の三連単を引き当て、それを元手に小さなパン屋を作った。田舎だけれども、人のあたたかい場所で。神様は粋なところがあるから、人生はうまくできている。