慧可断臂。
神様は、人間が嘘をつくことに辟易していた。知恵の実を齧った時から信用はしていなかったが、今の人間は文字通り息を吐くように嘘を垂れる。もうそろそろ、天変地異を起こして一掃する頃合なのかもしれない。
そんなある日、一人の青年が天界へやってきた。人類の声をまとめた陳情書を携えて。まったく、どこまでも図々しい奴らだ。
「神様、どうか聞いてくださいませ。神様が我々を一掃してしまうかも知れないという噂で、地球はてんやわんやでございます。神様、どうか考え直して下さいませんか」
「私は、人間が嘘をつくことを知っている。私が創ったものであるから、責任は私が取らなければならない。そろそろ、頃合なんだよ」
「ああ、神様。我々は嘘をつかないことを誓います。我々の覚悟を見てくださいまし」
青年は、自分の右腕をナイフで切り落とした。
「私は言わば、人間の結合体でございます。人間の右腕はみなしがた、すっぱりと切り落としました。これでも、覚悟がないと言うのですか」
「まだ、足りないな」
青年は、右脚を切り落とした。
「まだ、足りないな」
青年は、左脚を切り落とした。
「まだ、足りないな。左腕を落としたら、覚悟を認めよう」
「我々にはもう左腕しか残されておりません。神様、一思いに我々の左腕を落としてくださいまし」
神様は、青年の左腕を落とした。
「よかろう、人間の覚悟はここに認めよう」
「どうして、惑星Xに上星しないのだ? 」
「はい、この惑星は自然も豊かで、補給星としては問題ありません。しかし、喋る蛇がうじゃうじゃしているんです。それが、奇妙で奇妙で……」