ピストル。
友人は瀟洒な皮の鞄から、おもむろにピストルを取り出した。
「例えばこれを突きつけられたら、君はどう動く?」
居酒屋は喧騒に包まれていて、誰も僕らの席に気を使う余裕は無さそうだった。彼ら彼女らは目の前のジョッキを空にすることと、思い出を反芻することで手一杯なのだ。
「たぶん、あっさりと死を受け入れるんだろうね。哀しくなるくらい、あっさりと」
友人は身を乗り出して、僕の額にその銃先を突きつけた。金属の冷酷な硬さは、不思議と僕の骨ばった額とよく馴染んだ。
「答えは変わらない?」
「特段、変わらないね」
友人は機嫌のいいチェシャ猫のような微笑みを浮かべて、座席に深く座り直した。そして、日焼け止めをしまうみたいにピストルを鞄に戻してから、手を挙げて麦焼酎のソーダ割りをオーダーした。
「あれは、本物のピストルだったと思うか?」
友人は通りかかるタクシーを待っている時、そう呟いた。
「さあ、どうだろうね。少なくともあの質問において、その銃がピストル本物かどうかなんて些末な違いに過ぎない」
僕は友人の鞄を指さした。
「うん、そうだ。それは些末な違いに過ぎないんだ」
やがて黒のタクシーが止まり、友人は後部座席に乗り込んだ。もしかしたら彼は、運転手にもピストルを突きつけるのかもしれない。