被齧。
はじめに月が爆ぜた。前触れもなく、唐突に爆ぜた。もちろん、地球にとって対岸の火事ではなくて、隕石となった月が地球のいたる部分を掠め取った。地球は、よく描かれたチーズみたいに穴が空いた。
次に太陽が爆ぜた。熱エネルギーが瞬く間に太陽系を焼き尽くした。地球上のあらゆる生命はこの瞬間に絶たれた。隕石となった太陽の一部は、死の星となった地球をさらに掠め取った。地球は、悪魔が齧った林檎の芯みたいな形で残った。そしてしばらくが経った。
神様はエデンの園から、その不憫な惑星を見た。
「なんと、やり直してさしあげよう」
神様は時間を巻き戻した。地球がまた始まる。そしてそのうちに終わる。月が気まぐれに爆ぜるか、隕石が引き寄せられるか、巨大な悪魔が地球を齧りに来るのか。神様にだって分からない。でも、地球はまた始まった。それは福音なのかもしれないし、壮大な徒労に過ぎないのかもしれない。