水の流れに逆らって。
水の流れに逆らって進んでいる。何人もの友人が、道行く人が、顔のない人までもが笹舟の上から、僕を奇妙な生き物の生態を観察するみたいに眺めている。そして、悠然と通り過ぎて行く。今ならまだ引き返せる、甘言が時に聞こえる。共に進んできた仲間は、一人また一人と踵を返し、流れに身を任せて行ってしまった。一歩の重みは、上流へ進むにつれて全身にのしかかる。
凪の世界は、ある意味では幸せなのかも知れない。平穏で、約束された生活がある。沢山の友人が、そこにはいる。しかし、そこにある幸せには流動性がない。僕は、水のように流るる存在でありたい。そのためには、この歩みを止めてはならない。
水の流れは昨夜の雨で勢いが増している。この先には、滝があるかも知れない。滝の息吹を受け、無力さに打ちひしがれてしまうかも知れない。けれど、と僕は思う。けれど、まだ進まなくてはならない。僕はこの宿痾と共に、生きていく必要があるのだ。