美術館の余白。
美術館では、時間の概念が希薄だ。それが、何によってもたらされるのか、例えば静寂なのか、その建築にあるのか、分からない。その中でも、美術館にはその概念すらも感じさせない余白的な場所が必ずある。僕は、そこに佇むことが好きであり、ある意味ではそれがなければうまく生きていけない種類の人間である。
この美術館では、それがちょうど中庭の一角にあった。美術館と、その斜に並立する記念館の狭間。そこは、神様がうっかり時間の流れを与することを忘れてしまった場所のようで、時間という概念がまったく無くなってしまっている。言わずもがな、そこは僕のお気に入りの場所である。
しかし、あらゆる物事には代償がつきものであるから、僕の心の浄化と反比例するように僕がいるべき場所はディストピアのようになっていった。常に棘が食んでくるような苦痛は、僕をその余白に縛り付けていく。僕も、神様の備忘録から外れたかったのだ。
気づけば、僕は美術館の一部になっていた。多分、永遠に。僕はオブジェになって、余白を希求する人を、ただ待ちぼうけている。