台風の目。
「あれが台風の目ってやつか!」
隣のアメリカ人は片言の日本語で沸き立っている。今時日本語だなんて随分物好きな外国人だ。
「日本語お上手なんですね。」
気になったので話しかけてみた。無重力だと心も気さくになるものだ。
「はぁい、日本語は素晴らしい言語なんですよ。」
「久し振りに日本語で話しましたよ。ここに来るような国民性じゃないんでね。」
「それは残念ですね。慣用句がいいんですよ。僕は大好きです。」
「それこそ〝台風の目〟とか、ね。」
台風の目。あの中では束の間の閑暇に多くの人が安堵していることだろう。俺はそのように耐え忍ぶ生活をしたいとは思わなかったから、このように隣の惑星に移ろうとしている。ニーチェは深淵を覗くとき…うんたらかんたらと言っていたような気がする。俺は、地球の目を覗き、郷愁を感じるなどしている。
「〝台風の目〟は、私を睨んでいるようです。」