月を食む。
「るなちゃん、もうすぐだよ」
「はぁい」
マンションの少し窮屈なベランダに出る時は、月が綺麗な夜だけだ。それに、今夜は久方ぶりの月食。夜空は澄んでいて、晩秋がよく映える夜だ。
「どうして、月は欠けちゃうの? 」
るな、という名前は彼が付した。
「月の移ろいに目を向けられる子供になって欲しいんだ」
彼は今夜の月食を、何処から見ているんだろう?
「ママ、ねぇどうして? 」
「それはね、るなちゃん。巨人が食べちゃうんだよ」
「巨人? 」
「真っ黒な巨人がやってきて、月を齧っていくの。夜だから、その姿は見えないけれど」
るなは、月に見惚れている。
「それじゃあ.......地球もいつか食べられちゃうかもしれないね」
月を食む巨人は、またいつか地球の傍へやってくる。その円環に、私は小さなため息をついた。