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映し鏡。

涙の種類だけ、部屋には花がある。僕は人が死んでも泣かないが、恋や愛が絡むと駄目なタイプだ。叶わないものが恋であり、叶っても満たされないものが愛である。じゃあ、この涙はいったい? そういう涙もある。

僕は涙を記憶に留めるために、それぞれの花を植えている。訣別をすることはどうしてもできなくて、枯れる前にドライフラワーにしてしまう。そういったミイラも含めて、僕の部屋には10種類以上の花がある。エリンジウム、カスミソウ、バラ、千日紅、スターチス、青や白のカーネーション……。その一つ一つを見る度に、僕は流した涙の味や香りを思い出す。それが、必要な儀礼であっても、不必要な執拗であっても。

僕は、白いチューリップのドライフラワーをこの頃ずっとそばに置いている。触れてしまえばその花弁は、運命を嘲笑うかのように簡単に落ちてしまう。僕はその危うさに蠱惑されている。そして流した涙の数と、その意味を反芻している。明日がその君とデートだから、僕は扱いに困っている。落ちる花弁の儚さも、また美しいと思ってしまうから。


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