腕。
片腕に喰わせた薔薇が悪さをしている。薔薇の花弁は片腕に自我を、棘は理性を、葉脈は欲望を教えた。僕は薄気味悪くなって、片腕を外してしまった。血が飛び散るので、包帯を巻いてやった。
片腕は根が伸びるように独立器官へと変貌し、完結した機能になった。指を器用に動かしてミミズみたいに動いたし、シンクで水浴びもするようになった。元々僕の片腕であったし、愛着がない訳では無かったけど、僕はすぐに片腕の代わりと不倫していた。(骨の折れた傘は、あまりにも都合がよかった)
僕は片腕を捕まえると、床にたたきつけて気絶させ、ゴミ袋に詰め込んだ。ふと、これは殺人なんじゃないかと思ったけれど、もともと僕の一部だったんだから、これは自傷行為の延長に存在するものだ。そう考えると気が楽になって、僕は燃えるゴミの日を待ってから捨てた。最後までのびたままの片腕は、出来の悪いバームクーヘンみたいだった。