ヴェール、編む。
「探求欲は、原罪ね」
機織り機の埃をはらう。寡婦は濃藍の糸を掛ける。
「世の中、知らなければいいことばかり。だから、見失う。自分自身を、見失う」
機織り機が刻む音は、何故か自然と調和する。耳に心地よい音。こういう音が聞ける耳がある幸せ。森林に注ぐ陽光が眩しいと思える幸せ。
「私は、知ることを辞める。ただ、ありのままの幸せを、撫でることができればそれでいい」
濃藍のヴェールは、知識を隔つ壁となる。寡婦は織りたての羊毛を、顔にかける。このまま眠ると、ヴェールは溶ける。そして、ありのままをただ受容するようになる。
「これでいい……これがいいの」
ヴェール編みは、丙午と同じくらいの周期で流行る。この流行病が、疫病か益病かは時代によってまちまちだ。