メリーゴーランド。
僕は石膏でカチカチに固められて、メリーゴーランドの一部になった。石膏に固められてから分かったんだけど、石膏に固められてしまうと言葉のその輪郭がぼやけ(かちかちなのに!)、ある種のシンパシーだけで会話ができる。僕は石膏で固められた白馬に、それを教えてもらった。
「でも、悪くはないんだよ」
(シンパシーの世界では、君付けで呼ぶことがが唯一の戒律だった)白馬君は、まるで自分に言い聞かせるようにそう繰返した。悪くはないんだよ、メリーゴーランドの上で嗚咽する人も慟哭する人もいないからさ。
でも、ある日僕の上で泣いてしまった人がいた。
「どうして……どうして……」
僕は都合のいい魔法をかけられた王子様ではなかったので、その涙はそれ相応の体積を持つ水分でしかなかった。
「ねぇ、あれって哀しいことだよな」
白馬君は鬣を揺らすフリをして答えた。
「哀しみだと思わなければいいさ」
30年余り経って、不備が続いたメリーゴーランドはダンプカーで凌轢された。叫び声はちょうど君達にしか届かなかった。