遠い空。
雲一つない空を飛行機が引っ搔いている。飛行機雲が、その足跡を誇示するかのように浮かぶ。
「ねぇ」
彼女は俯いたままで、無反応だった。よく晴れた日に機嫌を損ねる、天邪鬼なところがある。
「あの飛行機が落下したら、どうする?」
「どうもしない」
「もし、君の友達が乗っていたとしたら?」
「それでも、堕ちてしまったら仕方がない」
「多くの人間は、人間的な感情によって涙する」
「多くの人間と私は、一致しない部分の方が多い」
彼女はアスファルトを睨み続ける。まるで福音に繋がる暗号を解読するみたいに。
「じゃあ、もし隕石が落ちてきたら?」
「変わらないわ」
「どうして? 死んでしまうかもしれないのに」
「どうせ、死んでしまうからよ」
「そういうのって、人間的じゃないよ」
彼女は小さく溜息を吐いた。彼女の感情は、負の側面に関しても動かすことが難しい。
「飛行機と隕石のどちらも、私にとっては想像の範疇を越えている」
「どうして?」
「どちらも同じくらい遠いもの」
彼女は顔を上げて、空と対峙した。墜落の可能性を秘めた飛行機と、落下を目論む宇宙の塵が、その空には潜んでいた。