聖母。
男の弱さは吐息に映る。
「あなた、これまで辛かったのね」
そして、気の利く男は弱さを隠しがちだ。
「そうかな? それなりに楽しんできたと思うけれども」
「あなたは、弱さを隠す仮面を付けているの。それは立派なことよ……でも、今夜はそれを外しなさい」
「そしたら、君を楽しませられないよ。僕は道化なのに」
「あなたはただ私に耽ればいいの。道化にだって、休息は必要よ」
アルコールを含んだ溜息。煙が染みる吐息。表情には仮面を付けられても、思考は謀ることができない。吐息は、その思考を映し出す鏡だ。私はそこに滲んだ男の哀しみを、包み込む娼婦。
「さぁ、思考の結び目を解いて。何も考えずに、私に身を委ねて」
私は海になって男を受け入れる。
「君はまるで聖母のようだね」
しかし、聖母は月暈のように儚い。それが私だというのだから、やるせない。