巡礼。
好意とは、その感情がもつ曖昧さとは裏腹に、境界線は立ちはだかる壁のように堅牢である。つまり、誰かを好きであるという感情と、そうでない感情の間には大きな隔たりがあり、その感情同士はプース・カフェが持つ色彩みたいに相容れない。ある人を思い起こす時に、その人が好きであったかそうでなかったかは、その人を覚えている限りは必ず記憶している。もちろん、僕は好きであった人を一人一人憶えている。それは美しい風景でもあり、どうしようもない後悔の温床でもある。
夢を見せてくれる嫋やかな睡眠が久しくなかった。しかしその夜、僕は甘美な夢を見た。十年前の淡い恋の続きを、その夢は描いていた。僕は君と笑いあっていた。次の夜、僕は憂患な夢を見た。この前の失恋の続きを、その夢は描いていた。僕は夢の中で、ようやく泣いていた。その次の夜も、明くる夜も、僕は好きだった人の夢を見るようになった。神様が懇ろに作ったリストを、虱潰しにするみたいに。毎朝僕は、夢の続きに意識があるのか、現実に意識が追い返されているのかが分からなかった。魔女のくしゃみみたいな日々達を、僕は図らずも愉しく過ごした。
好きだった人達を巡礼し終われば、やはり僕の人生は終わるのだろうか? 僕は一抹の不安を抱きながら、夢を縁に今日を過ごしている。