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【禍話リライト】「録音された会話」

今から10年程前に、とある大学生のグループが肝試しに行った時のお話。

肝試しの舞台に彼らが選んだのは、複雑な分かれ道などはない、ほぼ一直線の道だった。
その道を男女二組のペアになって、行って戻ってくるだけというものであったそうだ。
しかし、それだけではつまらないと感じたのか「後で皆で聴こう!」との話になり、各ペアでICレコーダーを準備した上で肝試しに赴くことになった。


「変な声入んじゃねぇかな」
「やめてよ!怖いこと言うの!」

「こいつはビビってるだろうから、(ウワァー!!)とか言ってる筈だ!これは証拠になるな」
「ハァ!?ビ、ビビってねぇし!」

そんな雑談を各々しながら、何事もなく順調に肝試しは続いていった。


そして最後のペアが出発した。

このペアというのが、人数の都合で男性同士にならざるを得なかったペアであった。

何処か苦々しい表情を浮かべたまま、待機しているメンバーを背に二人は道なりに歩いていく。




* * *




「………あいつら遅ぇな…?」


ふと誰かがそう呟いた。

それぞれが現在の時刻を確認すると、二人が出発してから既に20分以上の時間が経過していた。

大体15分程で戻ってくることの出来る距離だったそうだが、未だ遠くから人が近づいてくるような雰囲気も感じ取れずにいる。

「確かにおかしいな……」
「あれじゃね?『吊り橋効果でデキちゃった』とか!?」
「あいつらに限って、そりゃねぇだろ!アハハ!!!」

最初こそ、そのような冗談を飛ばして笑い合っていたが、そこから更に5分、10分と経過してもなお、二人が戻ってくる様子は全くと言っていいほどなかった。

流石に冷やかしていたメンバーも不安になり、「あれぇ…?どうしよっかな…?」などと小さく声を漏らした。

そしていよいよ、(誰かが見に行った方がいいのか…?)という空気になりかけていたそうなのだが、その時になってようやく彼らの姿が遠巻きに見えてきたのだという。

怪我などのトラブルがあったのではないと心配していたグループの仲間たちは胸を撫で下ろした。

彼らは早足でこちらに駆け寄ってくる。
何となくだが、その表情から何かを言いたげにしている様子が見て取れた。


「あ!おい!おい!!」
「お、おぅ…どうした…?」
「いや、なんか途中で……この辺の人なのかなぁ…?」

彼らの話によると、道の途中にあった茂みの向こう側から突然人が飛び出してきたのだという。
二人共々度肝を抜かれていると、その人物は彼らに「こんばんわー」と声を掛けてきたのだそうだ。
そこから、なし崩し的にその人物と立ち話をする羽目になったそうだが、何とか話を切り上げて、逃げる様にして戻ってきたとのことだった。



待機していたメンバーが騒然としている中で、彼らは更に言葉を続けた。

「でもそれ位だったな、怖かったのは」
「それにほら!皆より戻ってくるの早かったんじゃないか?お前らビビってるだろ!?」



その言葉に、場は凍り付いた。
そして、メンバーの一人がぎこちなく彼らに告げた。

「え…?いやいやいや………お前ら…滅茶苦茶時間かかってる……」

それを聞いて二人は反射的に時計を見て、愕然とした。

「あれ!?その人と立ち話したの、ほんのちょっとだぜ!?」


彼らからしたら、その人物と共にいた時間はそう長くはなかったとのこと。
そして、立ち話を終えると直ぐに仲間たちのいる場所まで早足で戻った為、かかっても精々10分程度だろうという勘定だった。

しかし現実では、30分以上の時間を彼らは道中費やしていた。





そして問題はもう一つあった。


「…なぁ、お前らそいつとなに話してたんだ……?」

「え…!?いや……ん…?あれ…?」
「……俺らあの人となに話してたんだっけ…?」

「……覚えてないの…?」



茂みから出てきたその人物と何を話したのかという記憶が、彼らの頭の中からごっそりと抜け落ちていた。




余りの薄気味の悪さに全員が恐怖で固まる。
そんな中で誰かが言った。

「あ!ICレコーダー!録音してるだろ!?」
「き、聴いてみよう…!」

そんな中で頼みの綱となったのが、事前に持たされていたICレコーダーだった。
メンバーの一部に急かされ、ペアの片割れがICレコーダーの再生ボタンに指を動かした。




再生された音声。

最初は歩く音に交じって、二人の他愛のない雑談や愚痴が聞こえてくる。

次第に言葉数が少なくなり、いつしか雑踏と二人の呼吸音、周囲の環境音だけがノイズ混じりにICレコーダーから流れてきた。


そして、それは突如として始まった。








ガサ  ガサ




  ガサガサ




     ガサガサガサガサ


「うん。じゃあね、じゃあね。僕がね、僕がお父さんだからね」
「うんうん。じゃあ僕は、お母さんをするからね」








恐らく二人以外の第三者が、茂みか藪かをかき分ける音が聞こえてきた。

そして、その音が止み終えると同時に、二人は喋り始めた。




幼児のような甲高い声色を無理矢理に出しながらおままごとをしているかのような、そんな会話を唐突にやり始めたのだ。






「ん…?お前…お前ら………何やってんの………?」

「いや…言った記憶もない………!」
「俺も……全然…………」


その場にいる全員が戦慄した。
常軌を逸したその録音を聴いて。

例えば、彼らの言う人物の声だけが聞こえず、二人が一方的に世間話でもしているだけの音声が流れた方が、逆によかったのかもしれない。

しかし実際には違った。
そんな陳腐な怪現象では済まなかったのであった。



そして、突然始まった彼らのおままごとは、異様な形で幕を下ろした。







「〇〇さんも遠慮しないでいっぱい食べて下さいね。
ママ〜今日の晩御飯なに~?」
「あら~〇〇さんこんばんわ~。今晩は肉じゃ
──

 うぉぉぉぉーーー!!!帰ろ!帰ろ!帰ろ!」
「あぁ!戻ろう!皆待ってるとこ、さっさと戻ろう!」







完全に夫婦役を演じきっている二人。
そこに(その役を演じる者の声はないが)、夫の会社の同僚が同席しているという、やけに凝った設定のおままごとを彼らは、5分、10分とやり続けていた。

そうしていると、お母さん役の男性がセリフの途中にも関わらず、急に小さく叫び「帰ろ!帰ろ!」と半狂乱でそう声を発しながら走り出した。

すると次に、お父さん役をしていた片割れも、「戻ろう!戻ろう!」などと焦った調子で、しかし普段通りの声色でそう叫びながら、同じように走り出したのだった。




ここまでの音声を聴き終えた後、メンバー全員はICレコーダーのデータをその場で全て消去した。
そして、各々静々と帰路に就いたのだそうだ。

暫く沈んだ気分のまま日常を過ごすこととなったが、その後グループ内で特段奇妙な出来事はなかったそうである。


余談だが、後日グループ内で「冷静に考えたら、俺たちの奴は消さなくてよかったんじゃね?」と話になり、理不尽にも最後のペアだった男性二人は、仲間から反感を買う羽目になってしまったそうな。






「でも、どっから声出したらそんな甲高い声出るのかね。男性がね。何分も──」

「おままごとしてたの、そいつ等じゃなかったらもっと怖いね。全く関係ない子供二人の声だったらダメじゃん?」

「お前マジでやめとけよ!言うなよ!それあいつらには言うなよ!」

「えー」




出典:【禍話フロムビヨンド 第18夜】
(2024/11/09)(11:21~) より



本記事は【猟奇ユニットFEAR飯】が、提供するツイキャス【禍話】にて語られた怖い話を一部抜粋し、【禍話 二次創作に関して】に準じリライト・投稿しています。



題名はドント氏(https://twitter.com/dontbetrue)の命名の題名に準じています。



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