【禍話リライト】「夜の祭り」
ツイキャス【禍話】に怖い話を提供する方の一人、【甘味さん】の体験談。
「廃墟じゃないんだけど、そういえば──」とのことで、曰く小学校時代に地区の催しでキャンプに参加したその夜に起こった話だという。
参加者の面々は、大人子供合わせ十数名程だったそうで、キャンプ場にあるコテージの1棟を借り、そこで一晩を過ごしたとのことだ。
寝室は2階にある3部屋を、それぞれ男子・女子・大人別々にあてがわれており、甘味さんも女子の部屋で眠ろうとしていたのだが、同室の女子のいびきか寝言かがうるさかったそうで眠れずにいたのだという。
やむ負えず部屋を出て、そのことを同行していた大人たちに相談したところ、「じゃあここで寝ていいよ~」と、1階の居間のソファで休むよう勧められ、甘味さんはそこで休むことになった。
そこから、夜の2時を回った頃。
大人の大部分も眠りに就き、一人二人が甘味さんから離れたテーブル席でちびちびと晩酌を楽しんでいたそうだ。
すると、突如扉の開く音が響いたかと思うと、「ねぇねぇねぇねぇ!今お祭りやってるんだって!行かない?」と話す、女性の声が聞こえてきたのだという。
それに驚き、甘味さんは覚醒した。
そして音が聞こえてきたコテージの玄関に目を向けると、そこには見覚えのある一人の女性が立っていたそうだ。
その女性は、他の大人たちと同様に自分たちの面倒を見てくれていた地区のお姉さんだった。
彼女の発した『お祭り』という単語を聞いて、甘味さんはお姉さんの後方、コテージの外に注意を向けた。
しかし、キャンプ場のまばらな明かり以外に目立った光源などは見えず、祭囃子といったそれらしい音楽や喧噪も聞こえてはこなかったのだという。
到底祭りがある様子には見えないが、それでもお姉さんは「ねぇねぇ!お祭りあるんだけど行かない?」と、同様の事を繰り返し居間にいる甘味さんらに話しかけていた。
それを聞いた甘味さんは、(何言ってんだ…?行かねぇよ…)と、寝ぼけた頭でそう毒づいていた。
そして、自分の近くでお酒を飲んでいる大人たちもそう思っているだろうと、テーブル席に目を向けた。
しかし、晩酌をする男性二人は、彼女を無視して相変わらず静かにお酒を嗜んでいたのだという。
(え?あれ?無視すんの?)と思いながら、再びお姉さんの方を見てみる。
すると、お姉さんは「無視すんなよ!」と怒るでもなく、「ねぇ!行かない!?」と同じ文言を発しながら自分たちの横を通り抜けて、階段を上り地区の人たちの眠る2階へと向かって行ったのだそうだ。
そして大人たちのいる部屋の扉を開くと、いちいち一人ひとりの名前を呼びながら『祭りに行かないか』と、再び誘い始めた。
「河野さーん!お祭りあるんだけど行かない!?」
「・・・」
「吉野さん!行かない!?」
「・・・」
彼女はそのように声をかけるが、誰一人反応する者はいなかった。
結構な声量で叫ぶようにそう話していた為、誰か起きてきてもいいはずなのにである。
甘味さんは耳を立てて、お姉さんの声に注意を向け続けていた。
そうしている内に、お姉さんは大人たち全員の名前を呼び終えたのか、その部屋を離れて次に男子の眠る部屋に向かった。
そして同様に、一人ひとりに声をかける。
「剛くん!この近くでお祭りあるんだって!行かない!?」
「・・・」
「翔くーん!お祭り一緒に行かない!?」
「・・・」
しかし、彼女の呼びかけに応える男子はいない。
最後に、女子たちの眠る部屋の扉を開けた。
「華子ちゃーん!お祭りに行かない!?」
「・・・」
「みのりちゃーん!この辺でお祭りあるんだけど、一緒に行かない?」
「・・・」
コテージの中。
お姉さんの声だけが響き渡っているのを、甘味さんはずっと聞き続けていた。
そして、
「甘味ちゃーん!行かなーい!?」
遂に彼女は、甘味さんの名前を口にした。
しかし1階のソファに眠る自分に向けてではなく、先程まで眠れずに過ごしていた2階の女子の部屋に向けてだった。
(え!?私ここで寝てるけど!誰に話しかけてんの…?)
コテージに入ってきた時、ソファの上で横になっていた甘味さんの姿を、彼女は目撃していたはずなのだ。
しかし、それに気づいていない様子で愚直に、或いはまるでそうプログラミングされているかのように、コテージ内の人々に『祭りに行かないか?』と、彼女は誘い続けている。
そこまできて、ようやく甘味さんはこの状況に恐怖を覚えたのだという。
(えぇ…私ここにいるんだけどなぁ…確認してないの…?)と思いながら、身を震わせていた。
「いく」
どこからかお姉さんとはまた別の誰かの声が聞こえてきた。
(だから、私はここに居るんだけどねぇ……!?
え…?)
その声に反応して、思考は一瞬停止してしまう。
そんな甘味さんをよそに、「じゃあ行こう!お祭りやってるから!地元の人に教えてもらったから!」と、お姉さんの明るい声が聞こえてきた。
そして、2階から降りて来る二人分の足音。
恐怖で固まっている甘味さんは目撃した。
お姉さんの隣には女の子がいた。
ショートカットの自分とは違い、ロングヘア-の髪を揺らしながら階段を下りてくる、自分と同じぐらいの年齢の知らない女の子だった。
そしてその女の子は、その日甘味さんが着ていた私服によく似た服を身にまとっていたのだそうだ。
1階まで下りて、自分たちの横を通り抜ける二人。
そして二人はコテージの玄関を開け放したまま、外へ出て行ったのだという。
その一部始終を見聞きしていたが、何一つ状況を飲み込めていない甘味さんの頭には、無数の『?』が埋め尽くされる他なかった。
混乱と困惑と恐怖に支配され、まるで金縛りにあっているかのように身動ぎ一つとれずにいる。
そうしていると、不意に後ろから声が聞こえてきた。
「寒ぃなぁ…」
「あ、おい。いつの間にかドア開いてんぞ」
それは、テーブル席でずっとお酒を飲んでいた男性二人のものだった。
そしてその内の一人が席から立ち上がると、全開になっているコテージの玄関の扉を閉めた。
そのような出来事があったものだから、甘味さんはその後一睡もすることが出来なかったのだという。
そして、朝日が昇りみんなが2階から降りて来る。
その中には、昨夜ずっと祭りに誘い続けていたあのお姉さんの姿もあった。
(え?えぇーーー!!?ちょいちょいちょいちょい!!!???)
それを見た甘味さんは戦慄し、またしても頭の中が『?』で覆いつくされてしまったのだという。
昨夜の体験があり挙動不審な部分があったのかもしれないが、明らかに寝不足で目元にクマの出来ている甘味さんの姿を見て、周りはかなり心配していたそうだ。
特にキャンプ場の職員に至っては「寝てないと絶対酔うからー」と、わざわざ酔い止めを甘味さんに用意してくれるほどだった。
その時に、甘味さんは「ここって、この地域だけのお祭りとかあるんですか?」と訊ねてみたそうだ。
すると、キャンプ場の職員はこう答えた。
「ん?あぁ…うん…… 前は…やってたんだけどね……この時期ね………」
歯切れの悪いそんな返答を聞いて、(前やってたんだ!?この時期!じゃあ今やってないんだ!?)と、余計に怖くなってしまったのだという。
その後、貰った酔い止めを飲んだものの、酔い止めの成分で眠くなることもなく、結局家に帰っても恐怖でしばらく寝ることが出来ずにいたそうだ。
そして、あまりにも気持ちの悪い体験だった為、自分にも良くしてくれていたお姉さんと距離を置くようになり、次第に疎遠になってしまったのだという。
出典:【禍話アンリミテッド 第一夜】
(2023/01/07)(34:07~) より
本記事は【猟奇ユニットFEAR飯】が、提供するツイキャス【禍話】にて語られた怖い話を一部抜粋し、【禍話 二次創作に関して】に準じリライト・投稿しています。
題名はドント氏(https://twitter.com/dontbetrue)の表記の題名に準じています。
【禍話】の過去の配信や告知情報については、【禍話 簡易まとめWiki】をご覧ください。