【禍話リライト】『忌魅恐NEO』より「財布の中を一緒に確認する話」
ある男性のお話。
男性の記憶によれば、同じ職場の友人の男性と二人でドライブをしていた時のことで、運転の途中である廃墟が目に留まったのだという。
それまで廃墟を見ても行こうとも思わなかったのだが、その時は(大通りに面してるから普通に行けんのかな?途中で獣道とかだったらやめよっかな)と考えて、その廃墟に向かって車を走らせた。
すると険しい道を進んだり、藪をかき分けたりするわけでもなく、何の障害もなくその廃墟に着いたのだという。
(行けたからまぁいいや)と、整備のされていない雑草が所々生えている駐車場に車を停め、その廃墟の中を散策に向かった。
正面玄関から入り、すぐ近くの事務室だったであろう場所。
その前に黒い長財布が落ちていた。
その財布と廃墟の劣化の具合が余りにも不釣り合いであった為、明らかに廃墟に来た誰かの落とし物なのだとすぐに察しが付いた。
「財布落ちてるよ、かわいそうに」
「ここで落としたらお前ぇ、馬鹿な奴だなぁー。ラッキー!」
「ラッキーじゃない、届けてあげようか」
そう友人と会話をしつつ、一応財布の中身を確認してみた。
見てみると、財布の中には免許証や保険証などの持ち主の身元が分かりそうなものは入っておらず、代わりに印字が薄れ読めなくなった古いレシートや途中で止まっているクリーニング店やレンタルビデオ店のスタンプカードの類が、パンパンになる程に入っていたのだという。
「えぇ…何だこりゃ、置いとこ置いとこ」
「でもかわいそうな人がいたから、写真撮っとこう」
そのように話しつつ、体験者の男性の携帯電話で撮影をしたのだという。
財布を指さして『残念!落としてはいけません!』といったニュアンスであったり、手に取って『ラッキー!』といったポーズを取ったりなどして冗談で何枚か撮影した。
その後は廃墟内をぐるりと見て回り、「帰ろ、帰ろ」と車に戻ろうと駐車場に向かうと、車の前に誰かがいるのが見えた。近づいて見てみると、背が妙に高い自分たちよりも年上の壮年の男がそこにいたのだという。
「なんですか?」と尋ねてみると、
その男は、
「いやぁあのワタクシ、車でねぇ、前にここに肝試しに来たんですけども、みんなで。その時財布落としちゃってぇ」
と答えた。
そして既に夕暮れになりかけていたこともあってか男は、
「こう暗くなってくると、ワタクシ今明かりを持っていないもんですから」
と付け加えてそう話した。
「あ、でも大丈夫ですよ。正面玄関入ってすぐんとこの、事務室の前に落ちてましたよ。黒い――」
と件の落ちていた財布のことを説明しようとする矢先、
「あ、そうなんです。ありがとうございます。」
と、男は説明を遮るようにして礼を言った後、走って廃墟の方向に向かっていった。
(あぁまぁ良かったなぁ)とそう思いながら、車に乗り込み自分たちはそのまま帰ることにした。
しかし帰りながら(あれ?自分たち以外の車なかったよな…)と思った。
自分たちが止めた場所以外に、パッと見てあの廃墟で車を停められそうな場所はないと思ったからである。
(もしかしたら、道のどこかに停めているのか?)とも思ったが、結局それらしい車は見当たらなかった。
それでも、(まぁいいや)と思いその日は帰路に着いた。
しかしよくよく考えてみると解せない部分がある。
普通に考えてみれば、日が暮れかけてるのだからわざわざ自分たちの車の方に行かず、速攻で建物の方に向かうべきなのだ。
それに男が乗ってたとおぼしき車も無かったのもやはり不自然だ。
そして気になった挙句友人と共に、明日の昼間に再び行ってみることに決めたのだという。
そして翌日の昼12時~1時の時間帯。
昨日訪れたその廃墟に足を踏み入れる。
すると件の財布は昨日と同じ位置に置かれたままになっていた。
流石に二人は驚きを隠せず、
「え!?こんな分かりやすい位置にあるのになんで?」
「回収しなかったのかな?あの人…」
「おかしいなぁ…だって正面玄関入ってすぐドア空いててさぁ、入って右のとこにあるのになぁ…」
などと話していると、自分たち以外の人の気配を感じた。
何かと思っていると、気配は雑草が生い茂る廃墟の中庭からしている。
草が揺れ動く様を見て、動物でもいるのかと思った。
しかしその中から出てきたのは、昨日会ったあの背の高い男だった。
男とは距離があるが、恐らく藪か何かで顔のあちこちを切り、血だらけになっているのが目に見えて分かった。
(えっ!?)
と思っていると男も二人の存在に気付き、
「あのぉー!正面玄関ってぇおっしゃってましたけどぉー!正面ってそのぉー!この建物の正面ってどこなんですかねぇー!?」
と笑いながら声を張ってそう話しかけてきたのだ。
それを聞いた瞬間、二人は「ウワァ――ッ!!」と叫び声を上げて、そこから逃げ出したのだという。
その間もその男は、追いかけてくることもなく、ただ声を張り上げて同じことを繰り返し尋ねてきていた。
「すみませーん!わかんなくなっちゃって――!」
そんな言葉が背後から聞こえてくる。
(ウーワ…コワイコワイコワイ!)
(お化けかオカシイ人かわかんないけどコワい!)
そんな思いを抱きながら、廃墟から逃げ出したのだった。
そして後日この話を、職場の同僚などの身内に話したところ大いに怖がられたのだという。それに手ごたえを覚え、飲みの席などで話を知らない人がいたら話す、すべらない怖い話のようになっていった。
特にこの体験談を最初に話した時からいる『ミナミ』という後輩は、その話を毎回聞かされているのに、耳にするたびに怖がるほどだった。
それから一年ほど月日は経ち、その話を通算五~六回は話し終えたある日の帰りのことである。
その日は廃墟に行った友人と共に帰路に着いていた。
「いやぁ~今日もウケてたね!すべらない話が一個あるだけでも便利だね」
とその話を話題に上げた。
すると友人は、
「まぁ良心咎めるよね、作ってるから」
と話した。
(え?)
あの話は、体験したままを話しているものなのだ。
一切誇張したり、捏造したものではない。
「え?作りって何?」と当然の疑問を友人に尋ねる。
「いや、正直居もしなかった男の話をしてさ。お前はいいかもしれないけど、俺はいい気持ちしないな。ミナミとかめっちゃビビってんじゃん」
そう友人は言い放つ。
「いや!?だから!体験したじゃん!お前何言ってんだ!」
「お前こそ何言ってんだよ。だからお前よくそんなさぁ、体験してもねぇ話をできるよねぇ」
互いの主張が食い違い、段々と険悪な雰囲気になっていく。
体験者の男性は、(体験したじゃん!絶対体験したじゃん!)と思いつつも、怒りよりも解せない感情でいるが、対する友人は明らかに不快感をあらわにしていたという。
そして友人は、
「次からお前話したきゃそれでいいし、俺も『これ嘘でした!』なんて言わないけどさぁ…。お前ちょっと改めた方がいいよ」
そう言葉を残して男性と別れたのだった。
残された男性は、
(え!?うそぉ!いや作ってないし!)
(そもそも『翌日の昼行こう!』って言ってたのあいつなのにな!)
(どうなってんだ!急にどうしたんだ、おい!)
と混乱しつつも、ずっと解せない気持ちでいっぱいだったのだという。
そしてそうした心境の中、住んでいるマンション帰宅して、眠りに就くとある夢を見た。
かつて行った昼間のあの廃墟。
事務室らしき場所に落ちている財布。
中庭に誰かがいるのが分かる。
それは、あの日の再現だった。
しかし、中庭に生い茂る草をかき分け出てきたのは友人だった。
「おーい、おーい!正面玄関どこだ?」
そう声を上げる友人を見て、(ウワーッ!)となって横を見る。
するとそこには、あの背の高い男がいる。
そこで再度悲鳴を上げて目を覚ましたのだという。
そんな悪夢を見て、全身が嫌な汗でびっしょりと濡れている。
(なんでこんな事になるんだ…)と悩みつつもあることを思い出した。
(そうだ!写真撮ってたじゃん!なんであの時俺は言わなかったんだ!?)
初めてあの廃墟に行ったときに、携帯電話で財布と友人を撮影していたのだから、それを見せれば自分が正しいのは一目瞭然だ。
早速携帯電話のフォルダを確認し写真を探してみる。
しかしなぜかその写真はどこにも見当たらない。
(あれ、消したっけ?消してないよな…)
日付から写真を探してみるが、やはり廃墟で撮った写真は見当たらない。
しかしその代わりに、撮影時間が一分未満の撮った覚えのない動画が見つかったのだという。
(動画?あっひょっとして、写真で撮ったと思ったら、動画だったのかな?)
そう思い動画を確認してみる。
映像は、真っ暗で非常にぶれていた。
そして、『ウワァ―――!!!ちょっと!キテルキテルキテル!!!』
と動画内から誰かの叫ぶ声が聞こえた。
(え?ナニナニナニ?)と思い、一時停止をしながらよく確認してみる。
すると撮影している場所は車の中だと分かった。
体験者の男性は運転席で、『キテルキテルキテル!!!』と叫んでいる。
友人は後部座席におり、『ハヤイ!!ハヤイ!!!』と叫んでいる。
状況から何かに追いかけられており、パニックになりながら車で逃げているのだと推測できた。
そして気づいてしまった。
(自分が映ってる!友人が映ってる!これ撮ってんの誰だ!?)
あの廃墟には二人で行ったはずなのだ。だからカメラにこの二人が映っている状況はおかしいのだ。
(え!?ええっ!?もう一人居たっけ!?)
もちろんその疑問が湧くが、すぐにその答えは分かった。
動画の中で友人が叫ぶ。
『俺目ぇ悪いからさ!ミナミ、ミナミ見ろ!!!』
そして撮影している携帯電話がどこかに置かれたと思ったら、そこに後輩のミナミが現れ、『いやぁ、やっぱり追っかけてきてますよ!』と話した。
(ええ―――っ!?三人目ってミナミ!?ええっ!!?)
男性の記憶の中では、あの場にミナミはいない。
一切記憶がないのだ。
恐怖と驚愕の中、動画を削除した。
混乱が収まらない中、翌朝ミナミへ電話を掛けた。
どう言葉にすればいいか悩みつつ、「〇月〇日にドライブ行ったじゃん?」と、試しにミナミも同行していた前提で話を振ってみた。
するとミナミが「はい」と答えた。
体験者の男性は、(行ってたんだ!?全然記憶ないけど!)と思いつつも、
「悪ぃそのことで話あんだけどさぁ…今日、家来れる?」
とミナミを呼び出そうとした。
するとミナミも、
「ちょっと僕も前から、先輩が話をするたびに言いたいことがあって…」
と話す。
男性の話の中ではミナミはいないことになっているのだから当然である。
(ああ、良かった…そっか…ミナミの方が記憶あったんだ…ミナミの話聞いてみねぇと分かんねぇな…)
そう思いつつ待っていると、暫くしてチャイムの音と共にミナミが来た。
「あぁ…悪ぃなぁ…」と言いつつ出迎えるが、なぜかミナミは部屋に上がらず外にいる。
「上がれよ」と促すが、「いやいいです。ちょっと他にも寄る所あるんで」と話し、結局玄関先で話すことになった。
そして男性から、「ごめんね、立ち話になっちゃうんだけどさ――」と話を切り出そうとした。
するとミナミが言葉を遮るように「僕の方も先に聞きたいんですけどぉ、コレ」と話しつつ、何かを男性に見せてきた。
それは黒い長財布だった。
男性は「ヘェッ!?」と驚くが、ミナミは平然と「コレなんですけどね―」
と話しながら、やけに分厚いその長財布を開ける。
財布の中身は、レシートや途中で止まったポイントカードが大量に入っている。それを男性に見えるように見せてくる。
どう見ても、どう考えても、これはあの廃墟に落ちていたあの財布だ。
「お前?ナンデ……ナンデ持って帰ってきてんの?」
混乱する男性をよそに、ミナミは「ネ?ネ?」と中身を見せつつ、何か同意を求めてくるかのようにそう話す。
その姿に最早男性は、何を尋ねられても「うん」としか話すことができなくなってしまったのだという。
そしてミナミは続けて話す。
「ネ?レシートとぉ、なんかのチラシの紙だけでしょ?」
「学生証なんかなかったですよねぇ?」
「ん?」
漸く出てきた「うん」以外の言葉はこれだった。
しかし続けざまにミナミは、
「いやだから、この中に学生証なんかなかったですよねぇ。最初に見せたときもそうだしぃ、今もそうだしぃ。ネ?僕ら盗ってないですよね学生証?」
と話す。
それに対しどもりながらも男性は、
「学生証は…そうねぇ…今もその財布の中にはないし、俺の記憶の中にはないかなぁ…」
と答えた。
するとミナミは「そうですよね」と話しながら、財布を自分の側に戻したかと思ったら、右上のドアで死角になって見えない部分から手が出てきて財布をひったくったのだという。
そしてミナミは右を向いて、
「ないですよ」
と誰かに話しかけた。
男性は扉を閉め、鍵をかけた。
(え?え?え?え?)
余りにも異常なことが起こりすぎている。
閉じられた玄関の向こうでは、未だにミナミの声が聞こえる。
しかしそれは、急に扉を閉められたことへの怒りの声でも、男性を心配する声でもない。
ただひたすらに、
「ネ?ないですよ学生証とか。そういうのがあったらネ?ちゃんと届けたりとかするしぃ」
などと誰かに向けて話しかけているだけだ。
しかし、ミナミ以外の誰かの声は一切聞こえてこない。
男性は(うーわぁ…なんか話してる…怖ェ…)と思いながらも、玄関から自分の部屋の奥に逃げることができず、ミナミの声を聴くことしかできずにいる。
「ないですよ、大丈夫です。個人情報とかがあったら警察に届けてるから…分かんないからそのままにしたんですからね…しょうがないっすよ…」
ミナミの話し声が徐々に遠くなっていく。
やがてエレベーターに誰かが乗り、階を降りていく音が聞こえた。
漸く男性は動くことができるようになり、玄関の扉を開け外を確認する。
もう外には誰もいなかった。
〖配信当時はここで話が終わっている。故に『登場人物のその後』という点は配信内では不明であったことをここに記しておく。ただし、かぁなっき氏曰く「もうわかったと思うんだけど、同じ廃墟なんですよ」とのことだ。そして甘味さんも「絶対に行かにゃい」とのことだった。〗
出典:【禍話アンリミテッド 第十四夜 (後半三十分は創作ドラマ?企画)】
(2023/04/15)(47:35~) より
本記事は【猟奇ユニットFEAR飯】が、提供するツイキャス【禍話】にて語られた怖い話を一部抜粋し、【禍話 二次創作に関して】に準じリライト・投稿しています。
題名はドント氏(https://twitter.com/dontbetrue)の命名の題名に準じています。
【禍話】の過去の配信や告知情報については、【禍話 簡易まとめWiki】をご覧ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?