好きすぎて何度も読み返しているお話。普段はしたことのない読書記録まで残すほど好きらしい。スマフォのメモ帳から転載。ミョンシルとシリーが死を迎えないために。 どんな話 主人公が、死別した恋人シリーに関しての物語を書き始める話。 5W1H 舞台は現代、おそらく2014年4月以降の韓国(セウォル号沈没犠牲者を悼んだ作品であると作者が来日した時に語っていたとのこと)ミョンシルという老女が、恋人シリーに思いを馳せ、シリーに関する物語を書き始めるまでのお話。 あらすじ 恋人シリーを
友人の猫が亡くなった。深見東洲にとてもよく似た猫だった。電車の中で彼の広告を見るたびに友人の猫を思い出していた。友人の猫は、深見東洲のダンディさはそのままに、耳を足し髭を足し尻尾を足し、猫に仕立てた、そういう猫だったと思う。(深見東州さんの思想や内面は全く考慮されていません。みすず学苑のゆかいな苑長という漠然としたイメージに準拠しております) 外出先から連れだって友人の部屋に戻ると、深見東州が憮然とした様子で迎えにきてくれる。友人は靴を脱ぐなり、キーちゃん!キーちゃん!
「彼はジェンダーだからさ」と得意気に言われた。なんのことか分からず呆然としていると「シイタケ君には言わなかったけどさ、シイタケ君のお義父さんやられてるぞ。そのお義父さんが飲み屋で拾った芸人、ジェンダーだからな」となおいっそうジェンダーという単語に情感をこめて、馬場さんは再び言う。わざわざ芸人とジェンダーとの間で息を深く吸いこんでから、発せられたジェンダーという単語は私のかろうじて残っていた思考力を根こそぎ奪っていった。発車したばかりだから、まだシイタケ君はルームミラー越しに
河出書房のキャンペーンコーナーはどちらですかとたずねると「えっ、河出の………キャンペーン………どんなキャンペーンですか」と書店員は怪訝な顔をした。2冊買うとブックカバー、5冊買うとトートバックがもらえるキャンペーンですと答えると、書店員は眉尻を下げ、あたりを見渡した。何度頭をふっても救ってくれる同僚がみつからないので、少々お待ちくださいねと言い残し、従業員専用と貼り紙のある扉に飛び込んでいった。バックヤードと売り場の間の仕切りが薄いのか、うっすら話し声が聞こえてくる。どうや
私とラーメンの間には便意が常についてまわる。それも避けようのない急激な便意である。スープを飲み干す頃合いを見計らって、どてっ腹に鋭いのをえぐりこんでくる。またやってしまったかと後悔する間もなく、肛門括約筋が震えながら助けを求めてくる。すぐにでもトイレに駆け込みたいが、私が好きなラーメン屋のトイレの多くは、防音性能や防臭性能が心もとないのである。 トイレはお店で一番の辺境かつ再深部に位置しているが、個室内においても注文をやりとりする声が鮮明にききとることができる。従業員の
大腸を内側から撮影した画像を何枚か見せてもらった。画像の多くには、つやのあるピンクの肉壁がきれいに洞窟を形成している様子が写っていた。医者がこちらなんですとペンのお尻で指し示す。その一枚だけ、ピンクの肉壁が崩れて道をふさいでいた。これが腫瘍なんですと医者がコメントをくわえる。腫瘍と呼ばれた奴は、腸壁のピンクより少し黒っぽくて、やる気なさそうにドロッとしていて、自身の増殖をもてあまし諦めているようだった。妻の所有するAKIRA6巻の、細胞の暴走に苦しんでいる鉄雄の姿を思い出し
隣の席の男性事務員はフィリップ・シーモア・ホフマンに似ている。入社して一週間経つがあまり話したことがない。 シーモアさんは仕事が一段落したのだろうか、フーっと大きく息を吐いた。それからガサガサワシャワシャと猫がレジ袋をあさるような音をたて騒がしくしていた。落ち着いたかなと思ったころ、ペリペリパキャパキャとプラスチックを割る高い音が響き、間髪おかず、通り雨が地面を打つようなサーという音が聞こえてきた。 シーモアさんの机を覗くと、銀色の小袋から塩らしきものをプラスチック