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「利用者様のため」という幻想

この記事は介護の職場で働いているスタッフに向けて、私が地域密着型デイサービスで管理職として働いていた頃の経験をもとに書かれています。


今日は「利用者様のため」は言うな、というお話です。


何かと「利用者様のためだから」と言ってくる介護スタッフがいます。そうやって不必要なケアを行ったり、利用者様に勘違い意識を生ませ、「利用者は偉いのだから何をしてもいい」と横暴にふるまう、モンスター利用者様を生み出したりします。


よく似た言葉に「お客様は神様だ」という言葉があります。この言葉のせいで「客は偉いから何をしてもいい」という意識が生まれ、横暴なお客様が増えているように思われます。私は嫌いな言葉というのは世の中に全くない方なのですが、唯一この言葉だけは大嫌いな言葉です。

※「お客様に尽くすことが使命」と思っている方がいたら、不快に感じると思うので、今ここでこのページを閉じて頂けると幸いです。


「利用者様のためだから、予定にはないけど外出行事に行きましょう」
スタッフからこう言われたことがあります。
私はデイサービスの責任者なので外出に行くかどうか判断する最終責任者は私なわけです。その提案をしたスタッフは、一人の利用者様が外出に行きたいと言っているから、行こうと言うのです。


「利用者様が少し早く帰りたいそうです。帰らせてあげてください」これもよく言われました。デイサービスはあらかじめケアマネが作成した計画に基づき介護サービスを行なっています。
その中にはもちろん、何時から何時までサービスを提供する、といった時間の計画も含まれているわけです。
おそらくこれを言ったスタッフはそのことまで気が回らなかったのだと思いますが、利用者様が言うからそうした方がいい、と最終決定を行う責任者である私に言ってきました。


驚くべきことに、「予定のない外出行事に行こう」と言ってきたのも、「今日は早く帰りたい」とケアマネの計画で定められていない時間での送迎を希望したのも、同じ利用者様でした。


その利用者様は普段からわがままな利用者様で入浴も絶対に自分が一番でなければ嫌、という方でした。誰だって入浴は一番先がいいに決まっています。それなのに他の利用者様の気持ちを考えずに、その方はいつも一番最初に入浴していました。


言い訳のように聞こえますが、これは私が責任者としてそのデイサービスに入った時からすでにその状況ができあがっており、変えることができませんでした。「入浴が一番先=私は偉い」という勘違いがいつのまにかその利用者様に芽生え、大きくなっていました。


私は、少しずつスタッフの意識を変えることから始めました。「利用者様のためだから」と言う時、それは本当に多くの利用者様の利益になることなのか?一人だけの利用者様のわがままではないのか?
それを考えてほしい。

「利用者様のためだから」と言う時、スタッフ側には「利用者様の機嫌を悪くすると面倒なことになる」という思い込みがあるのではないか?

実は、機嫌を悪くせずに、利用者様の行き過ぎた要望を断る方法はある。


それはスタッフ全員で「あの利用者様は時々自分勝手なお願いをする。でも、できないことはできないとはっきり言おう」と共有しておくことです。



わがままな利用者様の要望を断るスタッフは、ある意味汚れ役なわけです。自分が悪役にならなければならないのです。スタッフが一人で断れば、そのわがままな利用者様に対応したスタッフは本当に悪役になるでしょう。

でも、スタッフ全員が同じ意識を持ち、「すみませんけど、それはできないんです」と心から説明した時「ああ、ここのスタッフみんながそう言っている。もしかして私がおかしいこと言っているのかも。少しは言うこと聞かないとね」と思ってくださります。

そう思えない利用者様であれば、他の利用者様にとってその方は、厳しい言い方ですが、有害な存在になっていると思います。デイサービスというのは共同生活の場でもあるのですから。一人がわがままを通すということは、先ほどの一番風呂の話でもそうだったように、他の方の利益を奪うということなのです。


「利用者様のためだから」と言われるとなんだかその後に続く言葉が絶対的に正しいような、そんな気がしてしまいます。だから「利用者様のためだから」という言葉は、本当に必要な時以外は使わないでください。


もちろん「利用者様のために」という姿勢は悪いものではありません。何が利用者様のためなのか、チーム全体で考えればいいのです。一人のスタッフの考えや、一人の利用者様のわがままで介護サービスの質を下げてしまわないようにしましょう。

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