IRONMAN Malaysia 2023 詳しすぎるレポート【その⑤バイク編】
バイクスタート
マレーシアのバイクコースは皆生ほどではないが、なかなかにややこしい。ランカウイの島の一部をぐるっと二周するのでちょっと五島のような感じだ。
アップダウンは主に一周目二周目ともに前半のモンキーゾーンの往復と、50キロ/150キロ以降の市街地を抜けたあとの3連発の厳しい坂になる。トータルの獲得標高は五島や皆生ほどではないが、特にモンキーゾーンのところで地味に脚を削られる感じがいやらしい。
路面
モンキーゾーンのうちは(脚は削られるけど)まだいい。問題は元の道にもどって左折してからだ。マレーシアのコースは一部を除き全体に非常に舗装が荒い。日本の田舎道を酷くしたぐらいの凸凹が延々と続くので、漫然とDHポジションを取っていると下手するとハンドルを取られて落車してしまう。
実際、そのあたりでうっかり路肩に寄せ過ぎて「おーっとっと」と舗装面から落ちてしばらくダートを走ってなんとか復帰、という場面があって冷や汗をかいた。これ路肩があったから良かったものの、側溝だったら落車不可避だった。
そして普段そういう路面にあまり慣れてないから、振動をいなしているだけでもかなり上半身や体幹に負荷が掛かって疲れる。そう、ここはマクリ島ではないのだ。
道案内
昨年もそうだったが、不慣れなコースなので距離ごとのポイントをしっかり把握して進むために事前にこういうのを用意して、エアロボトルの上に貼っておいた。
35/135キロのところでロータリーを通過、52/152キロあたりで右折して山、72/172キロあたりで一周目は直進、二周目は左折、ほかエイドステーションの位置などを網羅してある(細かい右左折はコース上の案内もあるので割愛)。
これは昨年からブラッシュアップして情報量を精査したので、だいぶ助けになった。特にエイドがあとどれくらいか、というのは特に後半ボトルの水を被るペースを調整するときに重要な情報になった。
この辺りの序盤では、いわゆる「普通のスコール」があった。いい感じにザーッと降ってしばらくしたらやむ。午前中は気温もまだそれほど上がっていなかったので、割と快適に進むことができていた。このまま行けばいいけど、そうはならないだろうなぁ。
作戦失敗(実行できず)
一周目はわりとしっかりパワーかけて順調に進み続けた。平均で180Wはすぐに割り込んでじわじわと落ちていったが、いつものことなので気にしない。それよりも昨年は100キロ以降の二周目ガタンとパワーなくなってタレにタレた、今年は少なくとも150キロあたりまではタレずに進みたい。そのためには慌てず「パワー掛けすぎず」慎重に温存しなければ・・・
しかし結果的にそれは「上手くいかなかった」。一周目の52キロ以降の登り三連発。並び掛けた台湾か香港あたりのライダーがつぶやく「It's crazy…」。それに呼応して返す「Yeah, who chose this course?」「Hahaha…」気が紛れると同時に妙に力が入ってしまい、踏み倒してそれまで競っていたその彼を引きちぎってしまった。
特に三番目の強烈な直登の坂では、止まりそうになったり、あるいは諦めて足つきしてるライダーもある中「フハハハハLeg snapperやVolcano climbで鍛えたJETTerの力を見せつけてやるぜ」とばかりに大いに踏み倒して10人くらいごぼう抜きにした。これを猛烈に後悔することになる。
異変
60〜70キロにかけてややこしく右左折が続き、ようやく二周目には左折するポイントを通過。よしあと一周すれば残りは10キロ切っているわけだ。そこから北上して例のロータリーのところへ戻っていく。ここまでは良かった。
ロータリーを避ける形で2回左折して元来た道を逆にたどる。約85キロ過ぎ。あとはもう100キロない。日曜エンデュランス一回分ないと思えば楽勝!・・・ここで風向きが向かい風に変わった。
突然、心拍が120台から上がらなくなった。その割に脚の疲労感がドッと増してくる。踏んでも踏んでも進まない。いやもちろん向かい風だからだが、パワーも出てない。エッ嘘?もう?ちょっと待ってまだ100キロ行ってないのに?状況を受け入れたくなかった。
もう、エアロポジを固める余力がなくなってしまっていた。向かい風なのに。なんとか必死でリカバーしようとあれこれもがくが、こうなってしまうともうダメなことは自分が一番わかっている。あとはカフェイン入りのマグオンを早期投入し、エイドでバナナ等を補給しまくるぐらいしかできない。
後で思い出した。この10日前に献血したことを・・・
一応「400ccは10日で造血される」とはいうものの、通常損耗する分も踏まえて「回復には二週間」というのが定説であることを考えると、やはりあれは判断ミスだったのかもしれない。でもまぁ、それはそれ。今は今だ。
地獄の終盤
そこからのスタート地点手前、100キロ折り返しまでの区間は恐ろしく長かった。対向ではトップ選手たちがものすごい速さで次々に通過していく。知ってはいるけど、あまりのバイクの力の違いに圧倒されるしかない。
二周目のモンキーロードもまた、地獄の道行きになった。特に折り返してからの登り返しの厳しさは、ただでさえ凹んでいるメンタルにダメージが重なる。そして、さらに追い討ちをかけるように気温が上昇し、次第に天気も良くなってきた。マズい、マズい兆候だ・・・
二周目の島東部の南下区間では、もうかなり暑くなってその面からも体力を奪われ始める。エイドでしっかり水ボトルを取り、頭・胴・手足に掛けて冷やしながら何とか進む。まだこの辺りはアップダウンが大したことないからいいけど、やはりもはやパワーは全然上がらず、平均時速は下がる一方。
ドラフティング野郎
この辺でとんでもないやつが現れた。二人に一気にブチ抜かれたのだが、その後ろにいたやつがたまたま後ろにいただけかと思ったらさにあらず。前に出てもそのままずーっとドラフティングしてやがる。見えなくなるまでずーっと。マーシャルが居ないからって、ああもあからさまにやるかね?タヒねばいいのに!!
そしてもうじき街に近づく140キロあたりで見覚えのある派手なウェアの赤いサーベロがバビューンと抜いていった。WKさんだ!しかし悲しいことに追い縋る脚が無い。なんとか食い下がるも、ジリジリと離されていく。
その後三連坂の途中あたりまではかろうじて前に見えていたのが、その後見えなくなってしまった。地力の差だ・・・ランで巻き返せるかな・・・このタレ具合だとどうにもならんかもしれんな・・・
天誅
最初の急坂の途中で、さっき見かけたドラフティング野郎が苦しんでるところに追いついた。と、そいつは変速をミスったのか踏み切れなくなったらしくスコーンと落車。ザマーミロ!トライアスロンの神様はみんな見てはるんやぞ!!真面目にやれバカ者めが!
最後の坂は壮絶な状況になっていた。大柄の欧米人が両足をついてハンドルに上体をあずけ「ゼェーッゼェーッ」と肩で息をしている。ギアが足りず左右に蛇行してなんとか登っている選手、降車して押し歩くのもキツそうだ。自分だって必死だ。インナーローでダンシングしまくりで登るのが精一杯。まったく、、、誰だよこんなコースレイアウトにしたのは・・・
何とかその最悪の区間もクリア。あとはあっても緩斜面だ。歯を食いしばって進み続け、ようやく172キロ地点、二周目ゴール方向への左折。今年もやはり前後に人が居なくなっていたが、2回目だし、下見しておいたおかげで安心して進むことができた。
しかしタイムはすでに6時間を越え、目標の6時間どころか豪雨のアドベンチャーライド(笑)だった昨年よりも悪い状態に落胆を禁じ得ない。俺はこの一年なにをやってきたのか・・・
これも要するに鍛錬や配慮が足りなかった自分へのトライアスロンの神様の思し召しだな。しかし、これでランで巻き返すとか、無理でしょ?・・・いや、無理とか決めたらいかんな。普段から「ランは別脚」と言っているではないか。とにかくやれるだけやるしかない。
最後の陸橋を越えてからMIECにたどり着くまでがまた、長かった・・・T2にたどり着いたあたりの光景は、良く覚えていない。
バイクパート公式 6時間23分3秒 115位(大タレした割には悪くない?)
T2
ガーミンを止めて保存し、腕のガーミンはT2モードへ。キャッチャーにバイク渡してギアバッグラックへ突進!あっ無い!俺の番号どこや!こっちか、いや違う、もう一列向こう!(しまった、預託のとき確認するのを忘れてた・・・!!)
ダダーッとチェンジルームに駆け込みバッグをひっくり返してランシュー履く、ジェルとBCAA飲む、メットとシューズをバッグにぶち込みボトルベルトつけてキャップ被ってGo!!・・・と、そこに座ってるのは先行していたWKさんではないか?「WKさん!先行ってますよ!」「あっ・・・」彼が気づいた刹那、私はもう走り出していた。
T2横の仮設トイレへ。バイクパートで行ってないからここで済ませる。例によってだいぶ長いこと出たけどロスタイムは最小限に抑えられたと思う。T2からランへ移行するラインがよくわからなかったので往復区間に入るところでガーミンをポチ。
T2公式 3分56秒 ヨシ!!あとはもう「ランだけ」だ!エエエェェェ・・・
【その⑥ラン編】へつづく