ビル・ゲイツはなぜ産業界最初の資産長者になれたか
紀元前から始まっている貨幣経済。
中国では春秋戦国時代に青銅貨幣が発行されています。古代ギリシャのペリクレスの時代(紀元前5世紀)には、すでに銀貨が流通していました。ローマ帝国では5代目皇帝ネロ(在位54~68年)が、貨幣の改鋳を行なったと伝えられ、貨幣の普及ぶりがうかがえます。
人類社会にとって貨幣は、最高に便利な発明です。貨幣さえ携行すれば国中を身一つ手ぶらで旅行できます。この便利至極の貨幣は、紀元前から2500年にわたり使い続けられているので、このままでは貨幣経済が持続不能であるとは、考えにくいでしょう。
◇巨額の通貨が、世界中から、暴風のようにマイクロソフトへ吹きこんだ
マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツは1995年、巨大会社オーナーや不動産業としてではなく、産業界から初の資産長者となりました。もちろん彼の能力、努力、幸運のお陰ですが、最大の原因は貨幣経済にあります。
パソコン向け最初の本格OS「Windows95」は、日本では、1995年11月20日に発売され年末までに183万本、全世界では1999年3月までに1億9800万本を出荷しています。
これをもし物々交換で売買しようとすると、買う方も売る方も大変な手間になります。
たとえば日本国内でWindows95 1本を ‟米100kgまたはジャガイモ100kgと交換” とすると、1万本売るのも難事業です。売り手が手に入れるジャガイモ1000トンをどう扱うかも難題ですが、個々の買い手が米100㎏とジャガイモ100kgを確保することは大仕事でしょう。
物々交換で、ひと月少々で183万本売るのは、夢のまた夢です。それを可能にした貨幣経済の効果は革命的です。貨幣経済のお陰で、商品の流通効率は劇的に向上し、文明の利器がたった数年で、世界中に普及し得たのです。
ところが、この劇的な効果が、一方では貨幣経済を持続不能にします。
Windows95の価格は、新規インストール用が29800円、旧OSからの入れ替え用が13800円でした。平均2万円と想定すると、4年間で2万円×約2億本≒4兆円という巨額の貨幣が世界中からビル・ゲイツ率いるマイクロソフトへ暴風のように吹き込まれたのです。
◇便利な貨幣経済が、経済格差を革命的な速さで拡大する
銀行振込で送金されるお金には、重量がありません。やすやすと移動させることができます。そうなると、物々交換経済では絶対にありえない巨大経済格差が生じます。
その傾向を、外国為替の発展と経済のグローバル化、自由貿易が加速します。その加速ぶりを見ましょう。
2017年1月、国際NGO「オックスファム」は2016年に世界で最も裕福な8人の資産の合計(約4260億ドル)が、世界の人口のうち、経済的に恵まれない下から半分(約36億人)の資産の合計とほぼ同じだったとする報告書を発表しました(2017-1-17付け朝日新聞)。
世界の上位8人 = 世界の下位約36億人
また、フォーブス誌による世界長者番付を見ると、上位10名の資産額合計値は、2016年版から2022年版にかけて、6年で約2.2倍に増大しています。2022年版の上位には、テスラ、アマゾン、マイクロソフト、とグローバル企業が名を連ねます。
2016年の上位10位までの合計 約5054億ドル
2022年の上位10位までの合計 約11057億ドル 6年で2.2倍
◇勝者の荒稼ぎを認める現行経済
現行の貨幣経済では、運の良い勝者は「際限のない荒稼ぎが可能」ということです。
そして稼ぎと同額の貧困が生じることを、経済学は認めていません。
現行の主流派経済学には、錯誤があるうえ、基本となる法則が存在しないからです。基本法則を前提として、論理を演繹的に展開することができません。
本節のまとめ
・貨幣経済は人類による便利な発明
・貨幣経済が巨大経済格差を生む
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