ブルームーン~5月31日に泣いた赤くない男~
ブルームーン
5月31日のカクテル。そして、私の一番嫌いなカクテル。
ある日、あるバーの、ある男
今宵、寂しい男が独り、繁華街のBarへと足を運ぶ。
カウンターに先客は1人。20代後半とおぼしき女性が座っていた。
男は女性の右側に、ふた席あけて腰掛ける。
「ジントニック。」とだけ注文して、電子タバコの電源を入れる。
出されたジントニックを一口飲むまでのあいだ、バーテンダー含めた三人は何も語らない。
沈黙がいたたまれなくて、左の女性に声をかける。
「なに飲まれてるんですか?」
女性はこちらを一瞥することもなく、「シャンパン…」とだけ答えて、フルートグラスを高く上げて飲み干す。
<人は親切を受けると、対価を払っていない自分に認知的不協和を感じ、恩を返そうとする。詐欺師とナンパ師は、能動的研究職だ。>
男は女性に一杯オゴることで、距離を詰めようと考えた。
「マスター、よければ僕から彼女になにか一杯どうかな。」
マスターからの視線に彼女は「・・・ではブルームーンを。」と答えた。
彼女がブルームーンに口を付けたことを確認して、男は「彼女の分も…」と言い、一万円を置いてBarから出た。
わた…男は泣きながら家に帰った。
完璧な愛
ブルームーンには「パルフェタムール」というリキュールを使用する。
パルフェタムールを直訳すると「完璧な愛」となる。
(ちなみに、パフェの語源はパルフェ。完璧なデザートからきている。)
しかしながら、完璧な愛(パルフェタムール)を使ったカクテルであるブルームーンには「不可能」や「ありえない」という意味を持っている。
もし女性がブルームーンを頼んだとしたらそれは「あなたとなんてありえない」「お断りよ」という意味だったりする。
その時は、潔く諦めて帰るのが紳士たるものだろう。