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小説「M&A日和」第6章
本文
第6章 意向表明
第61話 社内稟議スケジュール
翌朝、いつものように朝から元気に出勤する真奈美。前日の深酒の雰囲気を感じさせないという特技を有している。
「おはようございます!」
元気に挨拶をした瞬間、山田が打ち合わせコーナーから手招きをしていた。
(えっと、まだ出勤処理もしていないんですけど??)
「酒井さん、今日は4/24木曜日だよね」
「はい、そうですね」
「来週はゴールデンウイークが始まるね」
「はい、そうですね」
「うん……であれば、それまでに意向表明を宮津精密に提示しておくのがよいかと思うんだ」
意向表明!
それはM&Aにおける『一大イベント』と参考書で勉強した覚えがある。
「意向表明ということは、いくらでどれくらい買いたいとか、結構具体的な提案をするんですよね?」
「うん、そう。あと数日しかないから、ちゃちゃっとまとめていこうか」
あと数日って……今日は木曜日。
明日が金曜日。
翌週は月曜日が28日で、火曜日からGWだ。
普通の感覚であれば3営業日しか残っていない。
(ええ~?3日でどうしろっていうの??)
という不満が顔に出ちゃったようで、山田はすかさず先手を打った。
「やはりGW後まで相手を待たせるようではよくないでしょ。とはいえ、GW
をつぶしたいとは思わないでしょ?」
「……は、はい……」
「うん。じゃあ、がんばって準備しようか」
(笑顔だ……山田チーフの笑顔……悪魔の笑顔だ。GWを人質に脅しをかけてくるとは、この鬼悪魔~)
「ちなみに、意向表明を提出するための社内手続きなんだけど……」
(――嫌な予感しかしない。もう、おうちに帰りたい。まだ出勤処理もしていないのに退勤したい)
「まずは意向表明の案を完成させる。それを法務にもチェックしてもらう。そして、事業本部事前確認、最後にうちの部長に決裁してもらう。おそらくうちの部長が大きなハードルになりそうだ」
「簡単に承認してくれないんですか?」
「うん。部長は外資系の投資銀行出身だから、相当ドライだよ。きちんと投資の意義を説明できないと承認はもらえない。今回の件は……」
山田の表情が曇っていく。
(ちょっと、ちょっと、自部門の部長が壁になるってどういうことよ?)
第62話 部長のハードル
「今回の件は、かなり分が悪いな」
山田が珍しく困った顔をしている。
あまりにも珍しい。
真奈美は、本気で心配になってきた。
「どういうところが、分が悪いんですか?」
「うん、ひとつはね――」
そして、山田はMA推進部の鈴木部長について説明を始めた。
外資系投資銀行という非常に厳しい競争文化でトップをとったやり手。
だからこその、成果主義であり、実力主義。
成果主義が高じて、幹部から評価される大型案件やトップダウン案件に注力する傾向。
逆に今回のような小粒のボトムアップ案件には手厳しい傾向。
そして……
「あと、今回の件。バリュエーションを正当化することが難しい。これは部長が一番嫌がるパターンなんだ」
「バリュエーション……」
つまり、宮津精密の企業価値をいくらと算定するか。M&Aにおいては、いくら出資していくらの株式を手に入れるかという意味で、非常に重要なポイントとなる。
「やはり、宮津精密にプレマネー90億円、ポスト100億円の価値があるか、というところが問題になるのでしょうか」
「その通りだ。そして、この点だけは鈴木部長の問題ではない。出資や投資をする場合にどの会社も必ずクリアしなければいけないハードルなんだ」
いつもなら、真奈美が的を得たコメントをすると笑顔を浮かべるはずの山田は、今日はここでも真剣な表情を崩さなかった。
第63話 プライスレス
「正直、今の宮津精密の業績を考えると、この会社に90億円の価値を正当化することは困難だ。事業計画が右肩上がりで拡大することを信じて初めて90億円の価値に手が届くかもしれないけど……」
山田は苦しい表情を崩さずに続けた。
「……やっぱり、あの計画はさすがに簡単に鵜呑みできませんよね」
「うん。そうなんだよね。そうすると……宮津精密の要望である10億円で10%という出資を正当化することはできなくなる」
「……」
真奈美はしばらく何も言えなかった。
そのとき……真奈美の脳裏には片岡が森社長と会話していた時の表情が頭に浮かんでいた。見たことがないような輝いた表情……
(……やっぱり、言いたいことがある!)
「でも、宮津精密だけでなく、コンシューマ事業本部にも大きなメリットが生まれるんですよね。片岡本部長もあんなに一緒にやりたがっていたんです。それって、プライスレスな価値じゃないんですか?」
とにかくこのままではまずい。真奈美はその危機感を大きく感じていた。
「そう。その通り。でもね。プライスレス……では会社は説得できないよ。M&Aを推進する我々には、買収や投資をする際に、しっかりと責任をもってプライスをつける義務がある。そうして会社の意思決定を促す必要があるんだ」
山田は落ち着いた声で答えた。
「……確かに、気持ちや気合だけで会社の方向性を決めることはできませんよね」
経営管理時代、同じような議論を何度もしていたことを思い出した。
『この施策は絶対にすごい効果を生み出すはずなんだ』
『それをきちんと定量化して今期の見込みに組み込んでください。でないと経営会議での承認はもらえませんよ』
(私は、そう言い続けるのが嫌でMA推進部に来たんだけど……でもやっぱり、やりたいことがあるならきちんと数字で示さないと、誰も説得できないことは変わらないのね)
真奈美は山田の目をしっかりと見つめて答えた。
「では……事業本部がやりたがっている、その気持ちをきちんと価値として定量化できればいいんですよね……」
その瞬間、山田の口元に笑みが戻った。
第64話 As is
「山田チーフ、問題と解決方法はわかりました。でも、どう進めたらいいのかわかりません。教えてください」
真奈美は、素直に、思いっきり頭を下げた。
「ははは。そんなにかしこまらなくても。君と僕と、同じ船に乗っているんだから。一緒に悩みながら考えていこうよ」
山田は照れながらも笑顔で答えた。
真奈美は……なぜだろう。山田のはにかんだ笑顔をみて、なぜか自分も照れて視線を外してしまった。
「酒井さんが言ってくれたように片岡本部長たちの気持ち、すなわち事業を成長できる期待感をしっかりと数値化していくことができなければいけないけど、その前にまずはアズイズでの宮津精密の価値をしっかりと把握することから始めよう」
(……アズイズ?えーっと、伊豆ならいつかはゆっくり行ってみたいと考えていますけど……って、違うよね)
こっそりとPCでググる真奈美。
『As is=現状のまま』
(たしかに、英語で考えるとそのまんまか……質問して失笑を買わなくてよかった)
「まずはバリュエーションの方法って、どんなものがある?言ってみて」
「え!?えーっと・・・あの、えっとですね」
(やばい、一難去ってまた一難。久しぶりにキラーパスが飛んできた。これをゴール決めないと失望されちゃう……)
真奈美の額には、大きな汗が吹き上がっていた。
第65話 いきなりM&A理論に突入!①マーケットアプローチ
「えーっと、バリュエーションの代表的な方法は、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチ……です」
山田は満面の笑みで応えた。
「その通り。よく勉強しているね」
真奈美はほっとして気を緩めた。
(もう、唐突に質問振ってくるの、いいかげんやめてほしいんですけど?)
その心の声は、おそらく山田には永久に届かないであろう。
山田は何もなかったかのように軽快に説明をつづけた。
「じゃあ、バリュエーションをやってみようか」
「え?は、はい」
真奈美はさすがに慌てた。
バリュエーションって、M&Aの真骨頂と言われている企業価値算定のことだ……
(はい!やってみようか?的なノリでいいんでしたっけ?)
「うん。まあ理論的に突き詰めていくと大変だけど、コツを覚えれば実践的にはそんなにむずかしくないんだよ」
そうして、山田によるバリュエーション実務(超簡略版)に関する講義が始まった。
~バリュエーション実務(超簡略版)講座:マーケットアプローチ~
上場会社の中から類似企業をピックアップしその経営指標を参考にする方法
①上場企業は株式市場取引によって株価や企業価値が決定される
(企業価値=株価✖発行株式数(自己株除く)-現金等+有利子負債等)
②この企業価値は、主に企業の収益力(EBITDA等)の影響を受けているはず
③つまり、企業価値=EBITDA✖○○の関係が成立するだろう
④類似する上場企業群の『○○』(マルチプルという)が分かれば、
非上場企業の企業価値を逆算できる
(対象企業のEBITDA✖○○=対象会社の企業価値)
⑤ただし、非上場企業の株式の場合、流動性ディスカウントが必要
~~ここまで~~
「この方法は比較的簡単でフェアな方法だけど、類似する上場企業をどうするかとか、対象会社個別の強みや事情が反映されないという問題は残る」
そして、山田がマーケットアプローチの結論を言い放った。
「IMによると宮津精密のEBITDA=8億円、類似企業マルチプルが10倍、ディスカウント30%と考えると、現時点での企業価値は約60億円が限界だね」
第66話 いきなりM&A理論に突入!②インカムアプローチ
「じゃ、次にインカムアプローチしてみようか」
山田は間髪入れずに次の試算方法を説明し始めた。
真奈美は慌ててメモを取り始めた。
「インカムアプローチは、その事業が将来いくらのキャッシュを稼げるのか?その総額が事業の価値だ、という考え方で、他の方法に比べてもいちばん理論上の事業価値をとらえられるる方法なんだ。やってみよう」
山田は恐ろしいスピードでエクセルの表を埋め始めた。
~バリュエーション実務(超簡略版)講座:インカムアプローチ~
①事業計画とB/Sから、将来数年分のFCF(フリーキャッシュフロー)を算出
(将来の運転資本の増減や投資も忘れずに推定し反映させる)
②各年度のFCFを一定の割引率で割り引き(下の式)、FCFの現在価値を算出
(n年目のFCFの現在価値=1/(1+割引率)^経過年数×n年目のFCF)
③各年度のFCFの現在価値を合計する
④ターミナルバリュー(最終年度以降に発生する事業価値)を加えて、
マイノリティディカウントを考慮
~~ここまで~~
……あっという間に企業価値の算定が終わった。
「できた。やはり、宮津精密の計画を完全に反映したらほぼ120億円という結果になるね」
(魔法を見ているみたい……)
真奈美は、あまりの速さに言葉が出なかった。そんな真奈美を見て、山田はゆっくりと解説を始めた。
「これをDCF、ディスカウントキャッシュフロー法というんだ。便利な方法だからしっかり覚えるといいよ」
山田は真面目な表情で続けた。
「この方法は理論的なので事業計画が正しければかなり精度が高い。でも逆に、事業計画が正しくないと正しい価値にはならない。特に将来計画の最後の方、誰にも正解がわからない部分が一番企業価値に影響を与えてしまうんだ」
確かに、事業計画は右肩上がりで組まれている。この計画通りに成長しなかった場合、全然違う企業価値が算出されそうだ。
「だからこそ、交渉でも社内審議でも、事業計画が正しいのか、妥当なのか、で揉めることになってしまうんだ」
(なるほど、確かに……はっ!)
真奈美は、しばらくメモを取るのを忘れていることに気付き、あわててメモを取り直した。
第67話 いきなりM&A理論に突入!③コストアプローチ
「コストアプローチはね……あまり使わないから省略するね」
ずこっ――
山田のこれまでの熱意ある説明が一転、めちゃくちゃ白けた表情……
「えっと、あの、なんで使われないんですか?」
「ん?うーん、それはねー」
あきらかにめんどくさそうだ。
「コストアプローチは、基本的にはバランスシート(B/S)、すなわち資産や負債の内容をきちんと評価しようという方法なんだけど……」
山田は頭をポリポリ書きながら渋々説明を続けた。
~バリュエーション実務(超簡略版)講座:コストアプローチ~
①資産や負債は現在のもので、将来の事業収入は反映されていない
②なので、資産負債の価値だけでなく将来収益を生み出す価値として、
超過収益力の価値を追加する必要がある
③その超過収益力をどう評価するか、が問題
~~ここまで~~
「……超過収益力、どう評価するんですか?」
「うん。正解はない。将来の価値を生み出すのは、無形資産と呼ばれる営業権だったり知財だったりといわれるけど、結局その価値って図る方法はなくて……いくら稼げるか?って話になっちゃうんだよね」
「それって……インカムアプローチじゃないですか」
「そう!」
山田の表情がやや晴れてきた。
「そうなんだよ。だから、最初からインカムアプローチ、もしくはマーケットアプローチでやればよいじゃんって話になるんだ。例外を除いて」
「……例外って何ですか?」
もう……と真奈美はほっぺたを膨らませた。
(……もったいぶらずにおしえてよー!)
「それはね。利益が出ていない事業や終息する事業を評価するときのことだよ。将来は無い、けど持っている資産を売却すれば幾分かの価値はある。そんなときには、コストアプローチが役に立つ」
「……結構、シュールな状況で使われるんですね」
できれば、この方法とは付き合いたくない……と思う真奈美だった。
第68話 ストレス
「で、結局マーケットアプローチとインカムアプローチ、どちらが良いんですか」
「正解はないから、両方を見比べながら判断していくことになるんだよね」
「なるほど……」
(ワインも日本酒、どちらがおいしいという正解がないから、両方飲める店に行く……みたいな感じね)
「じゃあ、次は、さっきのインカムアプローチでつかったDCF法、これの事業計画が未達だった場合のシミュレーションをしてみようか」
「そんなことができるんですか?」
「うん、事業計画の妥当性が怪しい部分にストレスをかけてみるんだよ」
「ストレス……」
「そう。例えば、売り上げの伸び率がこんなに高くない場合、コストダウンの進捗が悪かった場合、割引率が悪化した場合、みたいに、ワーストケースを考えてみるということだよ」
山田は、先ほどの計算シートをコピーすると、事業計画の数値を修正していった。
「例えば……売り上げの伸び率、つまりCAGRが10%。これを5%としてみると……」
売上が変わると、変動費や運転資本が自動的に変わっていき、利益もキャッシュフロー、そして企業価値の算定結果も自動で修正される。
山田は先ほどのあっという間の作業で、すべて連動するようにモデルをくみ上げていた。
「元の事業計画では120億円だったのに、ストレスかけると50億円……ですね?」
「うーん、約半分か。やはり90億円にはなかなか届かないか」
山田も困り顔だ。
「宮津精密の現金と有利子負債はほぼ同額だから、企業価値=株式価値と考えると……」
山田はエクセルでの計算を続けた。
X/(50+X)=10% → 9×X=50 → X=50/9=5.6億円
「マーケットアプローチでの企業価値60億円から逆算すると、ポストで10%とるためには5.6億円」
「インカムアプローチの場合は……10%で7.8億円ですね」
「そうなるね。やはり2~4億円分の追加価値を説明しないといけないことになるね」
「はい」
「四の五の言っていても始まらない。片岡本部長と腹を割って話そう」
そうして、急遽のテレビ会議が始まった。
第69話 事業本部長の責任
片岡はテレビの向こうで目をつむり腕を組んだまま、山田の説明を聞いていた。
宮津精密の価値は60から70億円レベルであり、90億円の価値とはいえないこと、とはいえ事業本部で何らかの提携効果を数値化できるのであれば、それを加味することも可能であること……
「もちろん、経営幹部に対して提携効果を納得してもらう必要がありますので、簡単ではないとおもうのですが……」
片岡は暫く黙って考えていたが、やがて口を開いた。
「状況はわかった。ありがとう」
「とんでもないです」
「私の気持ちとしては、やはり何とか一緒にやりたい。その理由は、昨日森社長が説明してくれた新しい技術。あれが実現できたら我々が作っているロボットを次世代のものに進化できると考えているからだ」
片岡の目に昨日の輝きが戻り始めていた。
「おそらくは他の事業本部でも活用できる技術になると思うが。とにかく我々にとっては大きなブレイクスルーになりうる技術だ」
「……その効果、計画数値で示せますでしょうか」
「うーん……」
片岡も、そこにいくとうなり声をあげてしまう。
この流れ……経営管理時代と変わらない。
事業本部長が経営幹部に数値で示すということは、その数値をやり遂げるという『ノルマ』が発生する。もちろん、その責任は事業本部長自身の肩にかかるのだ。
しばらく悩んだ末に、片岡は企画部長の佐々木に声をかけた。
「佐々木さん、事業部長と営業部長を全員集めてくれ。至急対策会議を行いたい」
「わかりました」
そして、片岡は山田に向かって答えた。
「どの程度の売上、利益に貢献できるか。本部で検討するから明日まで待ってもらえますか」
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします。我々は並行して作業を続けます」
「うん、ありがとう。では、よろしく頼むよ」
――そして、翌日の金曜日。
真奈美は朝一番にメールを開くと、佐々木から計画ファイルが送られていることに気付いた。
新機種の売価、コスト、各年度の数量見込みをもとに、追加で獲得できる売り上げと利益の試算がなされていた。
(また夜中まで頑張ってくれたんですね、ありがとうございます)
第70話 制限時間は120分
『小巻、助けて』
金曜日、午前10時。
チャットから、真奈美からのヘルプ要請が来た。
小巻は一瞬驚き、そしてなぜか笑みをこぼす。
(GW前だし、やはり相当のプレッシャーを受けているようね。ふふふ)
『意向表明?私の指導は厳しいわよ』
『うー、意地悪。お手柔らかに可及的速やかにお願いしますm(_ _)m』
(かわいいやつよのう。ま、面白そうだし、付き合ってあげますか)
『じゃ、こっちに来れる?今からでもいいよ』
『まじ?ありがと〜!!小巻愛してる♡』
しばらくして、真奈美が法務部のオフィスに息を切らせて駆け込んできた。
——これまでの経緯を説明する真奈美。必死な表情で可愛らしい。
「……てことで、週明けの月曜日には社内決裁取って相手に意向表明を提示することになったのよ」
「はあ、相変わらず、MA推進部は進め方が強引よね。で、ドラフトは真奈美に丸投げされたの?」
「……まずは作ってみろって、言われちゃった」
真奈美は苦笑いする。
「期限は?」
「えっと、午前中」
(午前中って、あと2時間しかないんですけど?)
「おいおい……相変わらずドSな部署ね」
「ごめんね……」
(そのリクエストに対して真面目に付き合っている真奈美は、本当にドMよね……)
「で、意向表明の雛形は持っているの?」
「うん、雛形ではないけど、過去のプロジェクトのサンプルがいくつかあるわ」
「じゃあ、それをベースに、ドラフト仕上げましょう。プロジェクターに映せる?」
こうして、前代未聞の2時間ドラフトが始まった。
第71話 ブラケット
タイムリミットまでの2時間、真奈美は小巻にマンツーマン指導を受けながら、なんとか意向表明書の第一次ドラフトを仕上げていった。
「まだ決まっていないところは[ ](ブラケット)で囲っておけばいいよ。最終捺印版にするまでに決めてね」
例えば、役員を派遣する権利をとるかどうかなど、まだ事業本部と細かい議論をしていないので、
[出資後は弊社より1名の役員を派遣し、貴社の経営に貢献する]
のようにブラケットで囲んで記載しつつ、コメントとして、
『社内コメント:役員派遣権利を要求するか相談させてください』
と記載することで、社内確認時のポイントを明確にするのだ。
このような指導も受けながら、2時間連続してレビューを続け、一旦全ての項目を埋めてみた。しかし……
「ブラケットばっかりね……」
「……面目ない」
「ま、ここで悩んでいても仕方がないから、さっさと社内関係者に展開して確認してもらいましょう」
「そうね。ありがとう、助かったわ」
「いえいえ、よく頑張りました」
小巻のなでなでをもらい、ほっとした真奈美。
メールで山田にドラフトを送り出す。
「終わった!じゃあ、お昼食べに行こうよ。お礼に奢るよ」
「いいね。ごちになるよ」
「あ……」
早速メールが帰ってきた。
二人でそれを覗き込むと……
『ありがとう。じゃ、13時から片岡本部長と確認会をしましょう。調整頼みます』
「本当に仕方ない部署ね」
「……ごめん、また今度奢らせて……」
真奈美は慌てて電話をかけながら法務部から駆け出していった。
第72話 意向表明ドラフト
真奈美は事業本部の企画部長である佐々木と連絡を取り、なんとか午後1時にテレビ会議の予定を確保した。
といっても、午後1時までもう30分もない。
「あーあ、またお昼サンドイッチか」
オフィスに戻る途中で売店によって買ったサンドイッチ。これをもぐもぐたべながらオフィスに戻り、すぐさまTV会議室に入ると、システムを立ち上げた。
すぐに、山田も部屋の合流し、TVの向こう側では片岡本部長も会議室に合流したようだった。
「片岡本部長、急遽の会議ですみません。来週月曜日にこれを社内決裁取って宮津精密さんに開示できるように、この場で未決定事項を決めさせていただきたいと考えております」
「いやいや、大丈夫だ。このプロジェクトはうちの本部の中でもトッププライオリティだからいつでも最優先に対応するつもりだよ」
そういってガハハと笑う。いつもの片岡だった。
「ありがとうございます。それでは早速ですが、酒井さん、説明宜しく」
(え、え、いきなり私からですか?)
全く心が落ち着く暇もないが、やるだけやってやる。
真奈美はもはや驚くこともなく、説明を始めた。
「まだ議論できていないところが多いので、鉤括弧[ ]がついていることろは、特に重点的に議論をさせてください」
そう注釈を入れたあと、意向表明書の内容説明を始めた。
✔︎会社概要
✔︎取引形態は『第三者割当増資』
✔︎出資の目的は貴社との協業、新規事業創出、両社価値向上
✔︎想定する出資価額は[10]億円
✔︎発行株式は[10]%相当。
✔︎計算の根拠は[貴社提出事業計画]
✔︎役員派遣については[1名役員派遣]
✔︎DDは[財務、税務、法務、ビジネス]
✔︎法的拘束力は基本的には拘束力なし
✔︎提案内容はDDによって変わりうる
✔︎そして、スケジュール、有効期限、秘密保持、その他の事項……
片岡も山田も一旦最後まで説明を聞いていた。
「いかがでしょうか。かなりたくさん相談したところがございますので、最初から順に議論させて頂きたいと思いますがよろしいでしょうか」
「うん、短時間で準備してくれてありがとう」
そうして、片岡と山田、真奈美を交えた議論が始まった。
第73話 論点二つ
片岡本部長に決めてもらう必要があるところは、大きくは2点だった。
山田は、バリュエーションについて説明を始めた。
「昨日も説明しましたように、10%出資で6~8億円の価値のところ、10億円とは2~4億円分の乖離があります」
「うん、その乖離は、我々の追加効果で埋まりそうか?」
「はい、今朝頂きました効果を価値化してみたところ、事業本部の追加効果は5億円はありそうだという結論です」
山田は、真奈美が法務とドラフトしている間に、バリュエーションについての説明資料を完成していた。
「あとは、この追加効果の妥当性ですね」
「うん、もちろん具体的な計画とまではいかないが、宮津精密の技術があれば少なくともこのくらいは実現できると考えている」
「ありがとうございます。それでは、宮津精密の要求通り、今回の意向表明は10億円で10%とさせていただきます」
真奈美は[ ]をはずした。
続いて、役員派遣である。真奈美が山田に替わり質問をした。
「2点目ですが、役員は派遣なされますでしょうか」
「うーん……10%の出資の場合、役員派遣するのが通常ですか?」
山田がとっさに答えた。
「いえ、正直10%だと微妙です。主張してもおかしくはありませんが、宮津精密が嫌がる可能性はあります」
「うーん……役員派遣は求めないようにしよう」
「了解しました」
「では、これで大体の論点の議論は完了か。意向表明はできそうかな」
「はい、週明けには稟議書を起案させていただきます」
山田は涼しい顔で答えた。
(ああ……これって、明日の土曜日も休日出勤ってことよね。2週連続……覚悟はしてましたけど)
真奈美は山田の後ろで仏頂面をしてみせた。
「……で、そちらの部長さんの合格はもらえそうかな」
「微妙です。今朝頂いた追加効果をどこまで信用してもらえるか、にかかっていると思います」
「そうだろうな」
「そこは、事業本部からもビジネスDDにてしっかりと確認していただく必要がありますので、ご協力をお願いします」
「うん、わかった。そのときはしっかりとチーム体制を整えるよ」
こうして、意向表明の内容はおおむね決定した。
第74話 ノンバインディング
事業本部とのテレビ会議が終わると、山田は慌ただしく次の段取りを指示した。
「酒井さん、今の内容で意向表明書のドラフトを修正して、なるはやで決裁書を起案してもらえるかな」
「え、ええっと、まだかなり粗い仕上がりなので、もう少し細かい表現とかも議論できたらいいなと思うんですけど……」
真奈美も、さすがに、いきなり決裁書起案には戸惑いを隠せなかった。
「内容自体は固まったんだし、『てにをは』は決裁者である部長に回付されるまでに完成させて差し替えればいい。事務的な手番で時間をとっちゃうともったいないから先行しよう」
山田は雑務担当の中野を呼んだ。
「はーい、また無茶な相談ですか?」
中野は涼しい顔でずばりと指摘してきた。さすが、MA推進部の雑務を一手に担っているだけのことはある。
「うん。悪いけど、今日意向表明を起案したいから手伝ってくれる?」
「わかりました。鈴木部長決裁ですよね?」
「うん、ノンバインディングだからそれで大丈夫なはずだ」
ノンバインディング――Non Binding――つまり、法的拘束力がないということ。
通常の契約書であれば契約内容が法的にも有効になり義務が発生する。これをLegal Binding(法的拘束力あり)という。
逆に、意向表明をするけど、まだ本約束じゃないから参考情報と考えてね。というのがNon Binding(法的拘束力なし)だ。なんらかの義務が発生するわけではないので、決裁者はM&A部門の責任者である鈴木部長に委任されているらしい。
(――って、小巻が言ってたわね)
真奈美は小巻に感謝、そして手伝ってくれる中野にも感謝した。
「で、いつまでですか?」
少し怪訝な表情で山田をうかがう中野。
「月曜日の午後に鈴木部長に説明しに行くから、それまでに関連部門の確認は終わらせておいて」
「えー!?また特急対応ですか?」
「ごめんごめん、よろしく頼む」
山田はニコニコ笑いながら手を合わせた。
「……もう、仕方がないですね……あ、酒井さん、早めに資料くださいね」
「あ、はい。ありがとう。すぐに修正して送るね」
こうして、中野がしぶしぶ決裁書の回付を引き受けた。
第75話 まだまだやらなきゃいけないことが多い
真奈美が意向表明ドラフトを修正し中野に提出し終わると、さっそく山田に呼び出された。
「この後の段取りなんだけどね」
「はい」
山田は申し訳なさそうな表情で続けた。
「意向表明は、しっかりとレビューして月曜日までに完成させたい。多分今日だけでは終わらないから、明日も出てきてもらえるかな。明後日でもいいけど」
(やっぱりそうだよね。覚悟してましたよ)
真奈美は苦笑いしながら答えた。
「はい、わかりました。明日出社します」
山田は少し表情が明るくなったが、まだ何か言いたそうだった。
「うん、ありがとう。あとね、月曜日の鈴木部長への説明のためのプレゼンも用意してくれるかな」
「え?決裁書、だけじゃなくてですか?」
「うん。もちろん、意向表明の内容だけじゃなくて、その内容に至った経緯を説明する必要があるよね」
それは確かにその通りだ。
意向表明書自体に意識を奪われていたが、そもそもこれまでの経緯を説明できていないことに、今更ながらに気が付いた。
「基本的には、先日片岡本部長に対して説明した資料で、これまでの経緯やIMの内容は説明できるだろう。あとは……」
真奈美は慌ててメモを取り始めた。
「宮津精密との面談の内容と価格目線、バリュエーションの考え方、シナジーの見込み、投資回収。このあたりを追加しよう」
「わかりました……でも、バリュエーション以降は自信がないです」
「うん、そこはぼくも手伝うよ。明日みっちりやろう。とにかく、それ以外で手を付けられるところは今からどんどん対応してくれるかな」
「わかりました」
(これは本格的にやばい。今日明日で終わらなかったら日曜日も、という流れになりかねない)
真奈美の顔色が、真っ青になった。
第76話 終電
真奈美は鈴木部長説明用の資料作成を先に終わらせることにした。
社内会議資料は得意分野である。
(鈴木社長は投資銀行出身だから、いつもの社内資料のフォーマットがお気に召すかはわからないけどね……)
真奈美は、片岡本部長に説明した資料で使った、会社概要やIM概要をそのまま流用し、そこにページを追加していった。
先日の宮津精密との面談の内容、彼らの価格目線。
(バリュエーションや投資回収は、白紙だけど、明日山田チーフと相談しよう。
……あ、事業本部からもらったシナジー効果は一枚整理しておいた方がいいわね)
――その日の定時間際。
真奈美は、空白ページはあるものの、一旦資料の全体像をまとめ上げ、山田にメールで送った。
(……ふぅ、あとは意向表明書の修正に移りますか)
その瞬間、チャイムが鳴った。定時だ。
「お疲れまでした」
チャイムの終わりを待たずに、さっそく帰宅しようとする中野。
「あ、中野さん、さっきの決裁書だけど……」
「はい!今、法務部長の事前確認は完了しましたよ。事業本部確認はまだ未完ですけど、この週末には確認してくれると思いますので、月曜日午前中には準備完了すると思いますよ」
「……あ、ありがとう。すごい、もうそこまで根回しできてるんだ」
「はい!慣れてますからね」
中野にとっては日常茶飯事の仕事だったらしい。さすがドS部門の雑務担当、心強い。
真奈美は、中野に感謝しながら、自分の仕事にもどった。
――その日の夜。時間は23時を回っていた。
真奈美は意向表明の文章を、社外に出せる文章になるように、てにをはを含めて何度も見直しを行い、時にはモゴモゴとそれを音読しながら、修正を続けていた。
(……もう、これ以上は自分だけでは改善できない。明日山田チーフに意見を伺おう)
真奈美は山田にメールを送った。山田は別のプロジェクトにつかまっていて、まだ席には戻っていなかったが、すぐにメールが返ってきた。
『遅くまでありがとう。明日もあるし、今日はあがってもらって、ゆっくり休んで。明日またレビューしましょう』
(もう、ゆっくり休める時間じゃないんですけどね)
真奈美は苦笑いしながら、久々の終電での帰宅となった。
第77話 バリュエーション
――土曜日の朝。
「おはようございます」
真奈美がオフィスに入ると、やはりいつも通りほとんどのメンバーが出社していた。
(相変わらず……この人たちは仕事の鬼ね)
そして、打ち合わせコーナーから山田が手招きしている。
真奈美は出勤処理もする間もなく打ち合わせコーナーに吸い込まれた。
「昨日は資料ありがとう。バリュエーションと投資採算については僕の方で資料化しておいたから、まずそこから説明をするね」
山田は朝から元気だった。
(この人、夜遅くまで会社にいるのに、いつも朝も早いわよね。何時に来ているんだろう?)
朝は8時半ぎりぎり出社が基本の真奈美としては、山田の生態が不思議でならなかった。
「バリュエーションは、この前説明したように、インカムアプローチとマーケットアプローチの両方で示す。いくつかの仮定をおいてレンジで示すのが一般的だ」
プロジェクターには山田がまとめたバリュエーショングラフ、すなわち宮津精密の企業価値に対する計算結果が載っている、横軸の棒グラフだ。
インカムアプローチでは50~120億円。
マーケットアプローチでは40~60億円。
両方が重なるレンジは50~60億円だった。
その下に、純資産も記載されている。約40億円。
「レンジの仮定ってどう決めるんですか?」
「ケースバイケースだね。DCFは事業計画のストレス有無や割引率、マルチプルのレンジは類似企業の選定基準とかね」
真奈美は感心して答えた。
「類似企業って、単純に同じ業界の企業を選定すればいいと思っていました」
「うん。その通りなんだけど、同じ業界といっても、広く加工業としてみるのか、狭く精密加工とみるのかとか。あと規模が近い中規模企業だけで見てみるとかね」
(なるほど。類似企業を選択するといっても、単純じゃないんだな……)
第78話 投資採算
「さて、出資10%で10億円、プレマネーでの企業価値90億円という宮津精密要望の価値の妥当性をどう説明するか」
山田は、DCFの計算シートを写した。
「ワーストケースでいくと50億円の企業価値だから、10%で5.6億円。10億円との差は約4億円強」
真奈美は、頭の中で計算式を思い出した。
X/(50+X)=10% → 9×X=50 → X=50/9=5.6億円
「事業本部のシナジー効果の価値が4億円の差を埋められるかどうかだね」
「それって、やはりDCFで計算するんですか?」
「正解!」
山田は嬉しそうに答えた。
事業本部からもらったシナジー効果のDCF分析によって、事業本部が今後数年間受ける利益を価値化できる。
「これを見ると、1年目は少ないが、2年目から4~10億円の利益、税引き後のキャッシュフローとしては3~7億円だ」
「ということは……3年目の途中で4億円の回収が可能ということでしょうか」
「そうだね。これを信じてもらえるか、にかかっているけど」
「でも、皮算用は整いそうですね」
真奈美は笑みで応えた。
その後も、昼食をはさんで夜まで説明資料のレビューと修正が続いていった。
窓の外が暗くなり夜景が映えだしたころ、ようやく山田の合格が出た。
「うん、ありがとう。月曜日はこれで行こう」
「はい、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。頑張ってくれたおかげでベストを尽くせそうだよ」
山田は笑顔で答えた。
「では、これから意向表明書のレビューもお願いできますか?」
「そうだね、じゃ、よろしく頼む」
こうして、土曜日もかなり遅い時間まで仕事することになったのだった。
第79話 嵐の前の……Part.5
土曜日深夜1時……
「よし、これで行こう」
山田が元気な声で宣言した。
夕方からレビューを始めた意向表明書。まさに一言一句最初から最後まで、何度も何度も繰り返しレビューを続けていたらこんな時間になってしまったのだ。
「お、おつかれさまです。ありがとうございました」
「いや、こちらこそ。頑張ってくれたね。ありがとう」
(もう終電すら終わってるんですけど~)
でも、不思議と山田のありがとうの言葉で充実した気持ちで満たされていた。
「酒井さん、タクシー帰りでしょ。よかったら帰る前に軽くラーメンでもどう?」
――こうして、ふたりで深夜のラーメンを食べに行くことになった。
山田が連れて行ったのは、熊本ラーメンの焦がしニンニクたっぷりの人気店だった。
深夜なのですんなり店内に入れた二人は、ビールで乾杯し、こってりしたラーメンをすすりはじめた。
「酒井さんがうちに来てくれて、まだ1か月だけど、これまでハードワークだったでしょ。ありがとうね。本当に助かってるし感謝しているよ」
「いえいえ、とんでもないです。私こそ、まだまだいたりませんが……」
思い返すと、MA推進部はそれぞれ忙しすぎて全員が集まることもままならないから、真奈美が配属されても歓迎会も開かれていない。
「今日はラーメンだけど、次はもうちょっとまともなところに招待するよ」
山田は真奈美の目を見ることなく、ラーメンをすすりながらぶっきらぼうに言う。
真奈美は……苦笑しながら答えた。
「はい、期待してますよ」
(山田チーフが一番忙しい身だから、いつになるか想像できませんけどね)
おまけ:第6章ダイジェスト
(第6章)
・GWまで数日というタイミングのため、急ぎ意向表明と決裁準備を始める
・実は決裁者である自部門上司の鈴木部長が一番のハードルと知らされる
・山田とともに鈴木部長への説得資料を作りこんでいく
・バリュエーションについても、理論的な面から理解するよう努力
・その成果もあり資料は完成し、いざ鈴木部長説得へ乗り出す
・予想通り、幹部が評価する案件しか興味がない鈴木は、やはり今回の案件
には乗り気ではなかったので説得には苦戦
・しかし最後は事業本部の本気度を代弁した真奈美の一言をきっかけに、「シナジー具体化を示すこと」の宿題を受けつつも意向表明決裁を無事獲得
・意向表明を提出し、GW明けにはいよいよ、本格交渉に入ることとなった
おまけ:ここまでのスケジュール
4月1日(火) 真奈美、MA推進部へ配属 (第1話)
~1週間 自主お勉強
4月8日(火) ノンネームシート受領 (第2話~)
4月9日(水) 法務(小巻)と会議、NDA準備 (第7話~)
4月10日(木)NDA決着 (第12話~)
4月11日(金)IM入手、FA内容確認 (第16話~)
4月14日~15日 事業本部資料会議向け作成(第37話~)
4月16日(水)事業本部と会議 (第39話~)
4月17日~18日 宮津精密面談資料準備 (第43話~)
4月18日(金)資料レビュー (第48話~)
4月19日~22日 休日出勤、資料修正、事業本部確認
(第51話)
4月23日(水)宮津精密面談 (第52話~)
4月24日~26日(土) 意向表明作成、部長説明準備
(第61話~)