連載小説★M&A春風 第七章 FA(フィナンシャル・アドバイザー) 第44話 第一問
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「では、卒業試験第一問だ」
朝一番から、山田が妙にニヤニヤしながら宣言する。
「え?いきなりですか!?」
真奈美は慌ててメモとペンを手にした。
「今日すべきことを答えなさい」
「き、今日、ですか?え、えっと……」
突然すぎて頭が真っ白になる。
通勤途中で、整理してきたつもりだったのに……。
(聞き方がいけずなのよ)
確かに正論ではあるが怒っていても仕方がない。
真奈美は小さく深呼吸した。
「IW銀行に連絡し、IWBC証券にFA提案してもらうよう要請します」
FAとはフィナンシャルアドバイザーのこと。
これまでの本案件に対してメインバンクのIW銀行に調査協力を仰いた経緯を考えると、やはりその系列であるIWBC証券が本命であることは変わりない。
「いいね。さっさと進めよう」
「は、はい。そうします」
「で、IWBC証券からはいつ提案をもらう?」
「そうですね。今週中くらいには……」
すると、山田は怪しい表情で真奈美を見つめた。
真奈美はあわてて方向修正する。
「……では、ちょっと遅いですよね?」
「先日あれだけ言っておいたからね。IWBC証券はもう提案の準備はできているはずさ」
「確かに」
山田は銀行の担当者をおちょくるかの如く弄りながら、FA提案をするよう促していた。これを逃すはずはない。全力で準備あいているだろう。
「今日明日にでも説明してもらえると思うよ」
「わかりました。依頼します」
「事業本部も同席させちゃえば話は早いよ」
「そうですね。そうしましょう」
無茶なスケジュールを立てることが多い山田だが、確かにその方が圧倒的に効率が良い。
真奈美は、メモに書いてあったやるべきことリストをさっと修正する。
「あとは、他の投資銀行からも提案をもらうかどうか。
これは後程、事業本部に決めてもらおう。
あくまで、本命はメインバンクだということは伝えておいてね」
「はい、わかりました」
こうして、今日の段取りが決まっていった。
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