連載小説「転生ビジネス・カオスマップ」第七部 第12話 特定法人融資担当執行役員
ひとりの男が入ってきた。
端正な顔つき。
洗練された高級感と品位が美しく織り込まれたスーツを着こなしている。
腕にはどう見ても高級なアナログ腕時計が輝く。
……最近トリオネア達の間で流行っている四次元ムーブメント搭載型だ。
「ベテルギウス&Co.の特定法人融資担当執行役員を担当しています。
ジョージといいます。初めまして」
流石、金融機関の頂点に立つベテルギウス銀行、その執行役員だ。
堂々とした立ち振舞いからは自信と威厳が溢れている。
目の奥にダイアモンドレーザーダイオードを仕込んでいるような威圧感。
特定法人融資担当執行役員とは、『銀行にとって特別な法人顧客』に対する融資を担当している銀行業務執行の責任者ということだ。
本来、会いたいと言って会える相手ではない。
今回会えたのは、やはり、ヴァーゴが特定法人に認められている、『そこそこに無視できないレベルの大企業』で、他の銀行にノンリコローンを奪われるかもしれない、という危機感を感じたということだ。
「ご丁寧にありがとうございます。ヴァーゴのCFO、メアリーです」
「M&A戦略責任者のハルトです」
「エージェントのユナです」
名刺交換を終えると、早速ジョージは交渉を仕掛けてきた。
「状況は御社担当から聞いています。
今回は、ノンリコローンの要請ということでよろしいですか?」
「はい。弊社の信用力ではなく、買収対象の事業力と弊社とのシナジーをもって、M&Aファイナンスのスキームを検討していただきたいと思います」
「スキームを説明してもらえますか」
「はい」
私はポータブル3Dプロジェクターを会議室のテーブル上に置いた。
すると、テーブルの上に3D資料が浮かび上がる。
……これ、便利だけどさ。
電池の減りが早いのよね。
私は無言でハルトを促した。
電池が切れる前に、ちゃちゃっと説明して説得しちゃって頂戴ね。