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連載小説★M&A春風 第54話 ジョイントベンチャー
第1話はこちら
「次のページが我々の提案になります」
そこには、今回の買収の形、すなわちストラクチャーに関する提案が書かれていた。
「たとえば御社に66%を買収してもらい、残りの34%は三島建機に継続保有してもらうJV(ジョイントベンチャー)を提案したいと思います」
JVはジェイブイ、もしくはジョイベンという。日本語では合弁会社。
つまり、複数社が株式を持ち合って共同事業を行う会社のことだ。
そのうち、過半数をもつ会社がいれば、そこが親会社となる。
「三島建機にマイノリティで残ってもらうことができれば、彼らも販売を支援し続ける大きな理由にもなります」
「確かに……でもそんなに弊社都合の提案を受けてくれそうでしょうか」
「はい。そこは慎重にアプローチ作戦を考えなければいけませんが……」
高木は力強い表情で続けた。
「三島電機グループは元々100%売り切らずにJVを作ることが多いグループです。三島建機も抵抗感は少ないと思われます」
合弁会社……真奈美は初めての提案にドキドキしていた。
(確かに、三島建機の株主にもまだ三島電機が23%残っているんだもの。可能性はあるかも)
「山根本部長、どうでしょうか?」
真奈美に意見を求められ、山根はゆっくりとうなづいた。
「確かに、本体営業やリース会社まで取り込むことは不可能でしょうし、我々もそこまでの体力はないですので、良い提案だと思います」
「そうですよね。それに、JVを通じて、三島建機さんの他の商材の相互シナジーも見込めるかもしれません」
「なるほど。そう考えると、JVは良い仕組みになるかもしれませんね」
山根と真奈美がJVアプローチへの納得感を受けて、高木は説明をさらに進めた。
「それでは、具体的なアプローチ方法についてご相談させてください」
(補足解説:飛ばしてもOKです)
JVを検討するとき、一番重要なのは議決権です。
議決権比率によって、その会社をコントロールできるかどうか、経営に関与できるかどうかが変わりますし、会計上連結するかどうかにも関わります。
ということで、議決権解説行ってみましょう!
(日本の会社法&会計基準ベースでの簡易説明となります)
①会社のコントロール
議決権100% 完全子会社。なんでも自由に決定可能。
議決権2/3以上 株主総会の特別決議も単独で決議可能。
議決権過半数 株主総会の普通決議を単独決議可能。
議決権1/3以上1/2未満
→マイノリティ。株主総会特別決議は否決可だが、普通決議は否決不可
議決権1/3未満 株主総会の特別決議も否決できない
②会計基準(基本的な考え方)
議決権過半数 連結子会社
議決権20%以上50%以下 関連会社=持分法適用会社
(但し40%以上で経営関与が強い場合などは連結子会社の可能性あり)
議決権20%未満 基本持分法非適用会社
(但し15%以上で経営関与が強い場合などは持分法適用の可能性あり)
ということで、まとめますと、①でどの程度の経営関与を必要とするか、②の会計上の連結をどうするか、を考慮し出資比率を決める必要があります。
……と、ここまでは大事なお話でした。
ここから先は、マニアックなので、本当に飛ばしてもらってOKです。
☆JVの収支が連結会計にどのような影響を及ぼすでしょうか。
・連結子会社:最も重要な指標『売上・営業利益』に直接加算
・持分法適用:JVの業績が営業外収益として加算(純損益に影響)
・持分法非適用:基本的に影響なし
(ただし、JVの事業が大きく傾いた場合は出資株式減損を食らう)
☆英語では、
連結子会社(Subsidiaries)
関連会社(Affiliates)=持分法適用会社(Affiliates accounted for by the equity-method)
つまり、関連会社=持分法適用会社と書きましたが、『関連会社は、
連結会計するときに原則的に持分法が適用される』という考え方ですね。