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短編小説「サンタのぽん太」

株式会社サンタの若手社員ぽん太は、クリスマス準備が最高潮に達するクリスマスイブの夕方に、突然社長室に呼ばれた。

「ぽん太、これをアラスカの宅急便会社に届けるんだ!」
社長が手渡したのは、北米中の子供たちへのプレゼントの袋と、封印された信書だった。
「これがイブの夜の間に届かなければ、クリスマスプレゼントを配ることができない。重大なミッションだ。頼んだぞ!」
ぽん太は力強くうなずき、特製スキーを履いて夜空へ飛び出した。

冷たい風がぽん太の顔を刺し、満天の星が頭上で瞬く。雪雲の上を滑る彼のスキーは、夜の静寂を切り裂き、白い軌跡を描いた。ぽん太は心の中で繰り返す。「この任務を成功させなければ、子供たちが笑顔になれないんだ!」

しかし途中、遠くから「助けて!」という叫び声が聞こえた。急ブレーキをかけたぽん太は声のする方へと雲の斜面を急降下する。
雪深い林の中、月明かりに照らされた小さな女の子が震えながらオオカミに囲まれていた。
(助けなきゃ……でも、配達が間に合わなくなるかもしれない……)
たくさんの子供たちが泣いている姿がぽん太の頭をよぎる。一瞬迷ったが、女の子の怯えた目を見て決意を固めた。

「大丈夫、僕が守る!」
ぽん太は女の子を背負うと、スキーを滑らせ林の中へと飛び込んだ。スキー板が雪を弾き、木々の間を縫うように滑る。しかし後ろから迫るオオカミの唸り声はどんどん大きくなり、雪に埋もれた根や岩が行く手を阻む。足を取られ、枝に顔を打たれながらも必死に滑るぽん太。

「もう少し……!」
だが、最後の急カーブでバランスを崩し、ぽん太と女の子は深雪の中に投げ出された。

「起き上がらなきゃ……!」
震える足で立ち上がろうとするぽん太。しかし、オオカミたちが今にも飛びかかろうとしていた。女の子を庇うように抱きしめたその瞬間――。

大地が振動し、遠くから地鳴りのような音が聞こえた。視界に現れたのは、大群のトナカイたち。彼らは猛然とオオカミに突進し、ぽん太と女の子を救い出した。

「ありがとう……」ぽん太はトナカイたちに頭を下げた。
「こちらこそ、この娘を助けてくれてありがとう」リーダー格のトナカイが静かに言う。

女の子はぽん太に微笑みかけた。
「本当にありがとう。でも……ちょっと困ってる顔してる?」
「間に合わないかもしれない……もう夜が明ける……」
ぽん太は俯いた。

しかし、女の子は明るく笑った。
「大丈夫だよ! ここはアラスカ。日本では25日朝になったかもしれないけど、ここではイブはこれから始まるんだよ!」

ぽん太が驚くと、女の子がウインクして言った。
「それに、信書を持ってるでしょ? 実は……私がトナカイ宅急便のCEOなの!」

信書を受け取った女の子は満足げにうなずく。
「これで株式会社サンタさんとの経営統合が完了ね。じゃあ、配送は私たちに任せて!」

その瞬間、大勢のトナカイたちがプレゼントを次々と運び出した。ぽん太は雪の上に座り込み、ようやく安堵の息をついた。
女の子はぽん太の隣に腰を下ろし、小さな声で言った。
「助けてくれてありがとう。あなたは本当に素敵なサンタさんね」
彼女はぽん太の頬にそっとキスをする。

「これは私からのプレゼント。これからも、世界中の子供たちを笑顔にしてね!」
ぽん太はその言葉に力強くうなずき、再びスキーを履くと、夜空を駆け抜けていった。

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